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第25話

Vol.4
女…。自分が如何にもふしだらな女であるかを知らされるようで頬が紅潮するのを感じとれた。

「ははは、奴のことになると松崎検事、貴女は頑なになりますな。いや失礼しました。実はですな松崎検事、私が以前提出した資料を憶えられますかな」
私は平野刑事の言葉の裏側を探り出すかのように目蓋を閉じた。10秒…20秒… 腕時計の秒針が頭の中で刻んでいるかのように、その時の資料を手繰り寄せ、記憶の中で開示しようと努める。何処と無く虫酸が走る。そう平野刑事に。老練な刑事はこれ程に人の心を覗こうとするのかしら。これじゃ私が何等かの犯罪者のようではないか。ご愁傷さま。貴方が島流しになることに何の関係があるのかしら、この検事の私に。人は職業環境汚染にて性質が変わる。特に学歴コンプレックスを持ち合わせている程に性質破壊がともわれ―――、何かの心理学本に載っていたような…。完全なその類いの性質を浴びているのでは?目蓋を閉じた私の心の片隅で侮辱的な平野刑事に言葉を投げ捨てた。その最中に1枚の用紙がヒラヒラと舞い浮かぶ。そるはまるで蝶が休息場所を求めているかのように。何という花だろうか?紅い花弁が震えている。閉じた羽根を寛ぐかのように緩やかに広げゆく。けど、それは蝶でなく蛾に変わり果てていた。何なの、この蛾は…見覚えがあるような…。そして花弁が崩れかけようとした時、言葉が過った。
「ククク。還有,見做ロ巴(ハイ ヨウ,ジエン ズオ バまた、御逢いしましょう)」
私の身体が硬直仕掛けた。松山慎吾… そう言えば私は奴のことは何も知らないのではないか。只魅入られたような目は、違う。この平野刑事の卑しげな目ではない。彼は人の暗部を卑しく覗こうとしているのではない。どう言えばいいのだろうか…。そうだわ、運命!!そう運命を凌駕しながら自分を憐れみ人を憐れみながら、何と言えばいいのだろうか…、救いを求めている?いや違う。言葉が巧く表せない。
「思い出してくれましたかな」
私は緩やかに目蓋を開いた。一瞬松山慎吾が目前に居ることん望むように。だが卑しく笑っているのは松山慎吾ではなかった。
「松崎検事。お気づきのことだと察しますが、私自身が引っ掛かるところなんですよ。自分でも判っていますよ。このような商売をし出してから人間が卑しくなったことを。松崎検事も私達をそのように捉えていますかな」
返す言葉がなかった。いや完全に見透かれていることに言葉が出なかったのだ。検事風情の小娘が!我々を甘く見るのじゃない。平野刑事の目に宿るのは明らかに劣等感から這い上がってきた老練の卑猥さが私を見下していた。
所詮あんた等は、私達警察組織があってこその検察であることを忘れて欲しくないですな―――。その言葉を吐かずとも、私には否応なしに受け止めることができた。
「私達警察は、果たして何を以て正義なのか最近考えさせられますよ。そんな思いの中で私は上と奴、つまり上層部と松山の溝が何であるのか興味を抱いた訳です。ところで松崎検事、奴のことで何か変わったことがなかったですかな」
「いいえ、今のところは…」
嘘をついた。奴が関わっているのかどうか判らないが、確かに悪戯にしては度を越しているようにさえ思う受信されたFAX。溜め息が出そうなのを堪えながら平野刑事の次の言葉を待った。
これも全て、あの変なFAXのせいだわ。いや…違う。
「松崎検事、フルーツサンドイッチとチョコフレーバーを買ってきましたよ」
「あ、片瀬君ありがとう。幾ら?」
「いいですよ。その代わり給料日には何かご馳走して貰いますから。今ジャスミンティーを煎れますよ」
「ふふ、高い昼食になったわね。それより片瀬君、佐渡が島の本署の電話番号を調べてくれない?」
事件なんですか――― そう尋ねる片瀬の言葉に返事することなく、私はチョコフレーバーの封を開けながら平野刑事の言葉を思い返していた。
「最後に松崎検事、Sという意味をご存知ですかな?」
私は「ええ」と答え頷いた。
「それなら言っておきましょう。我々の諜符なんですが、情報提供者を指す訳です。安月給から提供者に渡すカネもバカになりません。経費が出る訳でもありませんしな。だがノンキャリアで出世しようとするならSは欠かせない存在なのですよ。ところが松崎検事、逆に私達を監視もしくは探っている者をMと読んでいます。SMじゃないですが、これは同じ部所にいるものなのかは定かではありません。そして松崎検事、貴女方の世界にもMがいることを忘れないで頂きたい。正義など、まやかしに過ぎんのですよ」
私は何も言えなかった。言える筈もなかった。これが忠告というのなら、何を以ての職務なのか。
「勘定は私の方で。松崎検事、後は貴女が答を出すだけですがね。失礼」
そう言いながら膝を伸ばし席を立った。
「貴女はゆっくりしてから出た方がいいでしょう」
ポツリ―― とひとり残されたような私に、さざ波が押し寄せているようにさえ感じた。