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第2話

第1部 法廷
「ククク。還有,見做ロ巴(ハイ ヨウ,ジエン ズオ バまた、御逢いしましょう)」
法廷退出時に奴は確かにそう言った。
「えっ!?」
奴の背中を追うように、私は顔を向けた。ざわめく法廷。奴が言った言葉は中国語?耳奥で嘲笑うように奴の言葉が反復した。
「ハイ ヨウ,ジエン ズオ ハ……」
確かに私には、そのように聞こえたのだ。どう言う意味なの?私への何等かのメッセージ?
検察庁に戻り私は卓上のパソコン画面を開いた。翻訳機能を屈指しながら奴の言葉を拾うように文字を並べた。
「ハイ肺・灰・胚?いや違う。還有これだ。で次は…」
何なの奴は。並べる文字はまるでジクソーパズルだ。何故か奴に苛立つ。
還有,見做ロ巴?どういう意味なの?苛立つ。『!?』翻訳をした私の手が震えている。
「また、御逢いしましょう……。どういう意味なの!?ふざけている訳?チッ!」
思わず舌打ちをする私に書記官の目が不安そうに見つめた。
「お願い。コーヒーを煎れてくれないかしら」
「どうかしたのですか?」
片瀬が問い掛けてきた。
「いいえ。何でもないわ」
素っ気ない私。そう答えたものの、私は明らかに動揺していたのに違いない。
『何なのよ奴は?』奴の目に浮かんだ不敵な笑みに私の背にゾクリと寒々さを感じた。
松山慎吾:通称チャイナ・ブルー 国籍:日本国
本籍:東京都□△〇●
住所:N県●●●●●●●
生年月日:昭和〇年△月□日 40歳
暴力団:関西山神会系村雨組内銀流会幹部

奴は服役中に同会組員の些細な事件から名前が浮上した。県警本部は嬉々としたものである。
奴の前科記録に目を通すと『不起訴』『無罪』に目を引くも、特に気になるのは、何故県警本部が奴を常にマークしているかだ。奴以上の大物なら幾らでもいるのに…
資金源:不明
参照:ブラックホーク
「ブラックホーク?何を指してあるんだろう…」
松崎和代。そう、私のことである。職業は検察官つまり検事。キャリアとしてはまだ浅いが大学の恩師の奨めもあり検察官の道を進んだ。
私が若い女検事ということもあり、大抵のチンピラヤクザは嘗めてかかっていた。只法廷検事としての私は全く容赦しなかった。
「ダニ供が」それが正義と信じていた。………あの日までは。
此度の奴の事件は、偽装結婚がらみである。国際事犯としては、余りにもお粗末過ぎる。所謂刑罰設置をとったところで、たかが知れている。
平成1×年、銀流会絡みの発砲事件が勃発。抗争に至ることはなかったが、その折りも奴こと松山慎吾の関与が取り出されたが、捜査結果『関与なし』として逮捕に至らなかった。
現在、同会の組員は服役中であるが、数回の密告により捜査を重ねたが、結局空振りに終わっている。只私が興味を抱いたのは『出店』つまり公安による奴のリストに記された『blood』なる文字だ。「血…」私の唇が微かに動く。
『但しブラック解除なし』極秘扱いの報告書に記された文字に、果たして県警が何を探っているのか、現在の私には知る由もなかった。
「うふふ。興味あるわね。うん?ちょっと片瀬君、これシュガーが入っているじゃないの」
「あれ?すみません松崎検事。カップを間違いました。だから嫌なんだなぁ使い捨ては」
私が松山と接したのは、法廷検事に選任されてからのことで、つまり法廷が初めてである。
「クク。Nice to meet you。美人な検事さんだよ」
何て図々しい男なの。完全に嘗められている。こんな軽そうな男がまさか銀流会会長より力があるとは思えない。
逮捕のキッカケは銀流会本部長河村(深井)宏と政治結社愛國有和塾N県支部長河村安男との養子縁組に依る詐欺事件がキッカケであった。この事件捜査で押収した2人の戸籍謄本の内、河村安男の配偶者に王小春なる中国人女性の名前が綴られていたことから、王小春を任意調べをした際に偽装結婚を認めたのである。
その後の追及により、別の1組が発覚。当時は日本に所在確認が取れなかったが、取調べ時の供述通り、中国から日本に入国後の2人の中国籍女性を逮捕したのである。
サポート役の楊安仁は既に日本から出国していたのだが、厳しい取調べに王小春は遂に松山慎吾の名前を供述したのである。
「お願いしたいです。私言ったこと秘密。松山さん怖い人。河村安男、借金ある。松山さんに脅され私と結婚しました。河村悪くないです」
この供述が河村安男を苦しめたのだろうが、勾留期限間近に河村安男は落ちたのだ。