第7話

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2020/11/05 10:23
温くなったカルーアミルクが、低いテーブルに水滴を落としていた。


「……明日予定ある?」


「仕事。だけど、休んでも差し支えないかと」


君の綺麗な唇が、そっとあたしの耳許で囁いた。


「___アフターどうかな」


お客のおじさんに言われたことだったらある。でも全部断ってきた。


君が言うとこんなにも艶めいて聞こえるんだなって。


「はい」


目を細めて笑った。君も同じように笑った。


手際良く、君がスマホをいじる。LINEの通知が鳴った。


確認すると、隣にいるはずの君からで。ホテルの名前と部屋番号だけ送られていた。


「11時。待ってて」


君が席を立った。"今日はもう終わり"のサイン。


あたしはお会計を済ませて店を出た。



10時半。指定されたホテルの部屋。


居心地悪いぐらいにふかふかしたソファに体をうずめて君を待ってた。


がちゃりと鍵の開く音がして、振り返ると君。気味が悪いぐらいに黒マスクが似合う。


「……待った?」


「いいえ」


柔らかいソファに押し倒されてキスをされる。たばこくさい。


「___ここでやっていい、」


「だめなわけないでしょう?」


にやり、と君が微笑んだ。



全部終わって、一糸纏わずに。


君の腕を枕にして、あたしは横顔を見つめる。ねえ、どうしてくれんの。好きになっちゃったじゃない。


もう止まれないよ、どうするの。君の綺麗な首筋を指でなぞりながら、心の中で詰った。


「……楓くん」


あたしは、さん付けで呼ばなくなっていた。


"呼ばないで"って言われたから。


「何?」


君があたしの髪を梳く。女の人の髪の毛梳かすの好きなのかな、くせなのかな。


あたし以外の女にもしてるんだろうな、嫌だけど。


「好き」


寂しそうに君が笑う。そうだよ、あたしだってわかってるからそんな顔しないでよ。


「俺はホストだから、客以上には見れないよ」


ホストの癖して赤裸々。


嫌いじゃないよ。


「それでもいいから」


泣き出しそうな顔をして、君があたしにキスをした。


あーあ、こんな馬鹿みたいな恋10代のうちに全部終えてたつもりだったのにな。


20歳も過ぎて、こんな後先考えない恋なんて、ほんと馬鹿。


でも、好きになっちゃったんだから、好きなんだから、仕方ない。


君とキスしながら、あたしは冷静に、月々の給料のうちのどれだけを君に積めるか考えていた。



_____第一章 完

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