第6話

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2020/11/05 09:52
「そういえばみのりって普段何してるの」


「OL、兼、若干夜のお仕事を」


「兼業?」


「OLの安月給だけじゃやっていけなくて、渋々キャバ嬢で」


「道理で美人だと思った。なんて店?」


あたしは働いてるキャバクラの名前を言った。


君のお店とは違って路地裏を入ったところにあるぱっとしない二流キャバクラ。


全然指名貰えないからお給料は決して高くないけど、OLの安月給よりよっぽどマシ。


「今度行っても良い?」


逡巡。


一瞬迷った。あたしの、最低で最悪なところを見られたくなかった。


疲れたサラリーマンのおじさんに笑顔でお酌してるあたしを見ても、君が笑ってくれるなんて自信、なかったから。


「___それはちょっと」


へらりと笑った。寂しそうに君が眉を顰める。


「なら、いいや」


君が炭酸水を呷るようにぐいっと飲んだ。


アルコールは入ってないはずなのに、ただの炭酸水なはずなのに美味しそうに見えた。


それはきっと、君が飲むから。


「あぁでも見てみたいかも、みのりのドレス姿」


意地悪そうに君が笑う。


いつもはクールぶってるくせに、たまに意地悪ぶったり無邪気な顔を見せたりするから狡い。


なんて、まだ2回しか会ってないけど。


「やっぱり、露出したドレスですけどね」


あたしも笑った。


いつもは、趣味の悪いドレスに眩いばかりのアクセサリーを飾って、おじさんにお酌。


笑っちゃうぐらいひどい。


無理して飲んで、それをトイレで毎回吐くって言ったら君はどんな顔するのかなって思ったけど、


変な心配をかけたくないからやめた。


「綺麗、なんだろうな」


君の骨張った手が、あたしの頬を包み込む。


久しぶりに感じるあったかい誰かの体温。いつか恋焦がれた"愛された温もり"。


寂しそうで悲しそうな表情の君。なんでそんな顔するの?


君だって同じ世界に生きてて、眠らない街を相手にした商売なのに。


そんな顔されちゃ、あたしがどう悲しんだらいいのかわかんなくなる。


でもあたしは決めてる。自分で自分を哀れまないって決めてる。


自分のこと哀れんでしまえばもう立ち直れない気がする。ねえ、そうじゃない?


君が、あたしの髪をそっと手櫛で梳かした。


他の同業者みたいにうるさくしたりしない君の心地良い沈黙にゆらゆら、ぷかりと浮かぶ。


君と手を繋いだまま浮遊して。





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