第16話

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2020/11/08 03:20
君があたしのうなじをそっと撫でる。細くて骨っぽい指が擽ったい。


丁寧に毛先まで巻いたあたしの髪を、君は指に巻きつけて、離した。


まるで壊れ物を扱うみたいに馬鹿丁寧で、優しくて。


君の服から煙草の煙たい匂いがした。


シャンパングラスを傾ける。驚いたような顔をしてそれを見つめる君。


「カルーアミルクじゃないの」


「あたし、慣れちゃって。お店ではこっちも呑むようにしたんです、その方が馬鹿みたいだし」


傷ついたような、悲しい顔をされる。憐むような顔しないでよ。


傲慢な嘘つきが強いんだよ、君だって知ってるでしょ?


「……そっか」


お願いだからそんな同情じみた顔しないでよ。


生温い同情なら聞き飽きたし、もういらない。どんどん惨めになってくだけだし。


「今日はもう、帰るわ」


君が席を立つ。待って、なんて引き留めようとしたけど、君の背中はすり抜けてくばかり。


ソファに座って立ち上がれないまま、君がお会計をしてる後ろ姿を見ていた。


ピンヒールの高い音がして、振り向く。ユミ。後ろめたさに俯く。


「あの人って、みのりちゃんが貢いでるホストだよね」


「……そうだけど」


ああ、なんでこんなタイミングで君は来たんだろ。


ユミに背中を向けたまま話す。少しずつ背中が丸まっていくのがわかる。


まるで、あたしにとって君の存在が汚点だとでも言うように。


「みのりちゃんがどうしようが確かに私には関係ない。だけど同僚として、友達として言うけど」


ユミの声が、硬い。


「ただのエースとしか思われてないよ」


あたしだって馬鹿じゃない。そんなことぐらいわかってるし気付いてる。


どんだけ頑張ってもどんだけ貢いでも、所詮ホストと客。距離感は、壁は越えられない。


悔しいけど。


「そんなことわかってるよ。だけどあたしは、あの人に貢ぎたいの」


寂しがり屋な君に。その言葉はぐっと胸の奥に仕舞い込んだ。


あたしは、寂しがり屋で天邪鬼でうさぎみたいな君を放っておけないの。


放って置いたら、寂しさに死んでしまう気がするから。そんな気持ちから始まる恋だって素敵でしょ?


「……私はもうなにも言わないから」


踵を返す。背中に感じる刺々しいヒールの音。ひとり取り残されて、胸が痛い。


そうだよ、あたしだって辞めれるもんなら全部辞めたいよ。


こんな馬鹿みたいな恋。こんな恋終わらせてしまいたいよ。


だけど辞めらんないの、君を放っておけなくて。


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