第14話

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2020/11/06 23:04
「……みのり、昨日の夜何してたの」


あたしの隣に座るなり、尖った声が突き刺さる。


「ずっと待ってた、のに」


悔しそうに唇を噛み締めて、君が言う。


スカートの裾を引かれる。泣き出しそうな顔。ねえずるいよ、あたしが君のその顔に弱いって知ってるくせして。


「……捨てないで、」


今思い出すことじゃ無いと思うんだけど、だいぶ前、君が両親の話をしてくれた時。


君の両親は確か、小学生の時離婚したんだったっけ。


父親にも母親にも煙たがられて結局母親に引き取られたけど、いろんな男の元に出入りして、


男にぶら下がってしか生きられない母親に嫌気が差して、中学卒業と共に家を出たって。


だから俺に身寄りはないんだって話してくれた、寂しそうで悔しそうな顔とおんなじだったから。


ああこの人もひとりじゃだめな人なんだろうなあ、って思う。きっと、寂しいのに寂しいといえないのね。


あたしと一緒だ。


「ごめんなさい」


はっ、と君が顔をあげた。雨でぐしょ濡れになった、子犬みたいな顔。


お願いだからそんな顔でこっちを見ないでよ、ずるいよ。


「昨日は、体調が悪くて寝てて」


傷つけないための、君を守るための優しい嘘。


どうせあたしと君の間は嘘に塗れてるんだから、あたしだってひとつぐらい君に嘘ついたって良いかなと思って。


「そっか」


君だってどうせ、嘘だって分かってる。


気付いてるよね、そうじゃなかったら、どうしてそんなに悲しそうな顔なのか説明がつかないし。


「なら、仕方ないね」


ぱちりとスイッチを押したみたいに君の表情と声色が切り替わる。もう何度か見た、何かを誤魔化したいときの顔。


君らしくないぐらい、無理してるんだろうなってわかるぐらい明るい。


「今日は友達と来てるし、仕事もあるので程々で」


あたしも、ハリボテみたいな君の笑顔に合わせて笑う。


ふたりで必死に取繕う姿、みっともない。だけど今のあたしはそうするしかなかった。


そうするしか方法を知らなかったから。


君が、あたしの腰にそっと手を回す。鎖骨にきらりと光るものが見えた。


思わず目が止まる。


「……それ、」


あたしの視線に気づいて、君がふっと笑みをこぼした。


つん、と指ではじく。銀色のネックレストップがふらふら揺れた。


「みのりがくれたネックレス」


先月あった君の誕生日、あたしが送った給料3ヶ月分のネックレス。


全然つけてくんないから、君の趣味じゃなかったんだって寂しく思ってたのに。


次プレゼントするときは事前に欲しいもの訊いておこうって思ってたのに。


今このタイミングでつけてくれるなんてずるすぎる。こんなことされちゃ、好きが加速してくばっかりだ。

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