第7話

真夜中のヒーロー①
1,817
2024/04/22 09:00
三崎 由依
三崎 由依
……ああ、またここに来ちゃった
すでに終電が過ぎたあとだから、もう電車は来ない。

それでも心が沈むたびに、私の足はここに向いてしまう。

人気ひとけもなければ車も通らない。

この町の夜は、まるで呼吸を止めてしまったように静かだった。

私はそっと、踏切の前で腰を下ろす。

電車は来ないけれど、その代わりに後ろから足音が近づいてきた。
桐矢 修司
桐矢 修司
あのさ、俺の部屋から丸見えだって言ってんじゃん
私と同じように部屋着姿の修司は、呆れた顔でため息をついていた。
三崎 由依
三崎 由依
外なんて気にしなきゃいいでしょ?
桐矢 修司
桐矢 修司
気にするよ。お前は隙あらばここに来ようとするし
三崎 由依
三崎 由依
もう電車は来ないんだから心配するようなことは起きないよ
桐矢 修司
桐矢 修司
じゃあ、なんで来たんだよ?
三崎 由依
三崎 由依
……れないから
桐矢 修司
桐矢 修司
え、なに?
三崎 由依
三崎 由依
眠れないから来たの! 悪い?
逆ギレ気味に返すと、修司はそのまま私の隣に腰を下ろした。
桐矢 修司
桐矢 修司
そういう時は俺に電話しろよ
三崎 由依
三崎 由依
あんたと今さら電話なんてやだ
桐矢 修司
桐矢 修司
おい
三崎 由依
三崎 由依
電話とか、なに話すの?
桐矢 修司
桐矢 修司
えー今日の晩めしなに食ったとか?
三崎 由依
三崎 由依
つまんなそう
桐矢 修司
桐矢 修司
おいっ
さっきまでひとりだったのに、今はふたり。

今日は気温が低いから口から吐く息がお互いに少しだけ白くなっていた。
桐矢 修司
桐矢 修司
なあ、星空が綺麗に見えんのって田舎だけだって知ってた?
首が痛くなりそうなほど修司が空を見上げているから、私も釣られるように星を見た。

澄みきった夜空に瞬く星は、銀河という名前の海みたいだ。
三崎 由依
三崎 由依
じゃあ、都会では見えないってこと?
桐矢 修司
桐矢 修司
うん。地上にある人工の光が強すぎるからだって。たしか公害とかなんとか?
三崎 由依
三崎 由依
テレビで見たの?
桐矢 修司
桐矢 修司
いや、東京でも星が見えんのか調べた
三崎 由依
三崎 由依
なんで?
桐矢 修司
桐矢 修司
おんなじ星が見えたほうが近くに感じるじゃん
引っ越すことが決まってから、そのことについて彼と話したことはない。

東京行きのことだって担任経由でみんなに知らせただけで、私は修司に直接報告したりはしなかった。

彼は私が引っ越すことを知った時、どう思ったんだろうか。

それを聞くタイミングは今しかないと思う反面、今さらな気もしていた。
三崎 由依
三崎 由依
桐矢はさ……この町から出ていきたいって思わないの?
ここはある意味、浮世離れしている。

生まれてから一度もこの町を出たことがない人もいれば、義務教育だけを終わらせてさっさと出ていく人もいる。

そういう人は大抵町には戻って来ないから、結局地域性が強い人だけがこの町に残る。

だからこそ仲間意識が芽生えて、他人のプライベートにも平気で口を出す。

ここから出れば、もっと広い世界があるというのに、それを知らない人が多すぎる。
桐矢 修司
桐矢 修司
俺、誰にも言ったことないけど中学卒業したら、高校は寮があるところを選ぼうと思ってる
三崎 由依
三崎 由依
え、じゃあ、卒業したら町から出ていくってこと?
桐矢 修司
桐矢 修司
まあ、そうなるんだろうけど、出ていくっていうより俺は色んなところで、色んなものを見てみたいんだよ
三崎 由依
三崎 由依
(そんなことを考えていたなんて、全然知らなかった……)
桐矢 修司
桐矢 修司
それで、色んな人と出会って、色んな人の話も聞いてみたい
三崎 由依
三崎 由依
なんか桐矢って、気づいたら海外とかにいそう
桐矢 修司
桐矢 修司
あーそれもいいかもな。バックパッカーとか興味あるし?
三崎 由依
三崎 由依
はは、似合いすぎ
自然に笑ってしまった自分に気づいてハッとした。

思わず顔を隠そうとしたら、修司に手を掴まれた。
桐矢 修司
桐矢 修司
いいじゃん、笑えよ
彼の手は私とは反対にすごく温かかった。
三崎 由依
三崎 由依
あんたなら……どこに行ってもやっていけるよ
彼は歩く太陽みたいな人だから、どんな人でもその明るさに引き寄せられてしまうことだろう。
桐矢 修司
桐矢 修司
うん、俺もそう思う。でも海外に行ったとしても、最後はきっとこの町に戻ってくるよ
三崎 由依
三崎 由依
なんで?
桐矢 修司
桐矢 修司
色々と思うところはあるけど、俺の帰る場所はこの町がいい
桐矢 修司
桐矢 修司
ここは由依と出逢わせてくれた場所だから
離すタイミングを見失っていた手をぎゅっとされた。
三崎 由依
三崎 由依
(……修司の手って、こんなに大きかったっけ)
昔は私と変わらなかったのに、いつの間に成長しちゃったんだろう。

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