第2話

厄介なクラスメイト①
5,958
2024/03/18 09:00
三崎 由依
三崎 由依
……あ、
放課後。昇降口にある自分の下駄箱に手を突っ込むと、指になにかが当たった。

靴と一緒に取り出した〝それ〟を見て、私は自然に眉をひそめた。

いつからか入れられるようになった小さな正方形のメモには、たった一言だけメッセージが書かれている。

その筆跡には癖があり、考えなくても犯人が誰なのか見当はついていた。

私はメモ紙を乱暴にポケットに入れた。

なんでこんなことをするのか。

なんで毎日毎日、同じ言葉を私に訴えてくるのか。

何を考えているのかよくわからないから、私はただ彼が入れたメモを無視するという作業だけを繰り返している。
重枝のおばあちゃん
あら、由依ちゃん
家へと続く畦道あぜみちの途中、向こうから重枝のおばあちゃんがやってきた。

おばあちゃんの年齢は88歳。誰かの祖母というわけではなく、みんなのおばあちゃん的な存在で、私にも優しく接してくれる。
重枝のおばあちゃん
今、学校帰りかい?
三崎 由依
三崎 由依
うん。おばあちゃんは散歩?
重枝のおばあちゃん
歩かないと足がダメになっていくからね
三崎 由依
三崎 由依
今日、おばあちゃんちの柿を貰ったよ
重枝のおばあちゃん
ああ、修ちゃんからかい?
今朝の散歩途中に手を貸してくれたのよ。
あの子は本当に心があったかい子よね
桐矢の遅刻の原因は、大体人助けだ。でもそれを言い訳にはしない。

彼は昔からお節介で、困った人を見かけると助けずにはいられない性格だ。

重枝のおばあちゃんと別れて、慣れ親しんだ通学路を進んでいたら、桜の木に一輪だけ花が咲いていた。

三崎 由依
三崎 由依
(え、あれって桜だよね? 今は10月なのに?)
思わずスマホで調べると、春じゃなくても桜が咲くことはまれにあるらしい。

季節はずれに咲く花だから〝忘れ花〟と呼ぶそうだ。
三崎 由依
三崎 由依
……忘れ花
みんなよりも先に咲いてしまったのか、それとも遅れて咲いたのかはわからない。

でも周りから浮いている一輪だけの花が、まるで自分みたいだと思った。

みんなと同じ町で育ったのに急に世界が一変して、気づいたらひとりぼっちになっていた。

だから私はもう人と関わることはやめようと決めた。

誰かを信じるから裏切られるし、大切な人を作るから失う。

はじめからなにも求めなければ、苦しむことなんてない。


――カンカン、カンカン。

気づくと私は家がある方向とは反対に曲がって、踏切にたどり着いていた。

警報音と同時に遮断機が下がり、その前で足を止めた。

この町を通る電車の本数は驚くほど少ない。

運悪くタイミングを逃してしまえば、次の電車が来るまで1時間以上待たなければならない。

――カンカン、カンカン。

ゆっくりと電車が見えてきた。じっとその車体を見つめていると、私の背後で気配を感じた。
三崎 由依
三崎 由依
あのさ、私を監視するのやめてくれない?
電車が勢いよく線路を通過していったタイミングで、後ろを振り向いた。
桐矢 修司
桐矢 修司
監視じゃなくて、お前がまた早まったりしないか見張ってんだよ
三崎 由依
三崎 由依
それが監視だって言ってんの
桐矢 修司
桐矢 修司
だってここの踏切、俺んちのすぐ傍だし?
三崎 由依
三崎 由依
監視と関係ある?
桐矢 修司
桐矢 修司
俺の部屋の窓から踏切が見えんの由依も知ってるだろ。うちに来たことあるんだし
三崎 由依
三崎 由依
……名前で呼ばないで
桐矢 修司
桐矢 修司
今はふたりきりなんだからいいだろ?
桐矢に……修司に名前で呼ばないでと頼んだのは、たしか小3の時だった。

それまでは私も修司の家にしょっちゅう出入りしていて、泊まったこともある。

だけど父親の浮気が原因で、私の世界は天地がひっくり返ったみたいに変わってしまった。

それによってお母さんは体調を崩して、夜もまともに眠れなくなった。

『お父さんの浮気相手は年下らしい』

『すでに相手の女性を妊娠させている』

それらは町の人の好奇心を掻き立てるには十分すぎるほどの出来事だった。

そんな噂によって肩身が狭くなった私たちを置いて、お父さんはあっさりと別の街に移り住んだ。

今、浮気相手の人と一緒にいるのかは連絡を取っていないからわからない。
三崎 由依
三崎 由依
私のことなんて、いい加減ほっときなって。
私に話しかけると学校のみんなが変な空気になるのわかるでしょ?
桐矢 修司
桐矢 修司
変な空気にしてるほうが悪いだろ
三崎 由依
三崎 由依
うちは事情が事情だから仕方ないんだって
離婚だけならまだしも、お母さんはもうすぐ別の人と家族になろうとしている。

私の気持ちなんて、置いてきぼりにしたまま。

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