第3話

厄介なクラスメイト②
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2024/03/25 09:00
桐矢 修司
桐矢 修司
べつに親の離婚も再婚も珍しいことじゃねーだろ?
三崎 由依
三崎 由依
でもこの町では珍しいんだよ
桐矢 修司
桐矢 修司
うちだって片親だし
三崎 由依
三崎 由依
あんたと私の事情は違うでしょ
修司のお母さん、京子きょうこさんが病気で亡くなったのは3年前。

京子さんは周りの噂話に耳を傾けずに、つねに私たちに優しくしてくれた。

精神を崩していたうちのお母さんのことを励ましてくれただけではなく、私の学校行事もお母さんの代わりに京子さんがたくさん手を貸してくれた。

運動会の時に一緒に走ってくれたこと。

保護者代理として遠足の同行をしてくれたこと。

京子さんの子供は修司なのに、私のことももうひとりの子供みたいに接してくれたことは一生忘れない。

大袈裟に聞こえるかもしれないけれど、京子さんのことは私ももうひとりのお母さんだと思っていたし、言葉にできないほど感謝している。

本音を言えば、その恩を返したかった。

きっとうちのお母さんもそう思っている。

だけど京子さんは呆気なく天国に行ってしまった。
桐矢 修司
桐矢 修司
俺、母ちゃんが死んだ時、すげえつらくてもう二度とこんな気持ちになりたくねーって思った
三崎 由依
三崎 由依
…………
桐矢 修司
桐矢 修司
だからもう踏切に来るのはやめてくれよ、由依

京子さんに恩返しができないのなら、それを私は修司に返していくべきだと思う。

でも私は彼のお願いに頷くことができなかった。

最初に踏切に立ったのは、両親の離婚が成立した日。

次は学校や近所でうちの噂話を聞いた時だ。

友達だった人の声が怖い。

親切にしてくれていた近所の人の目も怖い。

目に見えるもの、聞こえてくるものが全部、全部、怖くなった。

それでも私は自分自身に大丈夫だと言い聞かせた。

私がお母さんのことを守っていかなきゃいけない。

私がお母さんのことを支えていかなくてどうするのって、必死に生きることを選ぼうとしていた。

だけど1年前。『由依に紹介したい人がいる』とお母さんは突然、知らない男の人を家に連れてきた。

今、真剣に付き合っていて、いずれ家族になりたいと思っていることを聞かされた時、私の中でなにかが音を立てて崩れた。

付き合ってる人ってなに?

いずれ家族になりたいってなに?

私は自分の気持ちを奮い立たせて、必死にお母さんを支えていたのに、いつの間にかそんな人と出逢っていたの?

ねえ、私じゃなくて、他にも支えてくれる人がいたなんて、聞いてないよ。

ふたりで乗り越えて、前に進もうとしてたのは私だけだった?

私とお母さんは、同じ気持ちじゃなかったっていうの?

私のことを置き去りにして、ひとりだけ幸せになろうとしているお母さんが許せなかったし、裏切られたと思った。

本気で消えてしまいたい。

こんな世界を終わりにして楽になりたい。

私は、その日初めて踏切の中に入った。

――『死ぬなんてバカなことはやめろ!』

それを止めてくれたのは、他でもない修司だ。

自分も電車に轢かれるかもしれないのに線路に割って入ってきた彼は、私を引きずって踏切の外へと連れていった。

お前には俺がいるって。

苦しくてどうしようもなく辛いなら俺を頼れって。

頼むから、ひとりで死のうとしないでくれって、泣きそうになりながら伝えてきた修司は……。

まるで自分が死ぬみたいな顔をしていた。


ぐしゃり。

制服のポケットに手を入れたら、下駄箱にあったメモ紙が指に触れた。

この紙を入れた犯人は修司だ。

私のことを助けた日から、彼は監視するようになっただけではなく〝ある言葉が書かれた紙〟を毎日靴箱へと入れてくるようになり、それは1年経った今でも続いている。
三崎 由依
三崎 由依
修……桐矢はさ、私なんかに同情しなくていいんだよ
桐矢 修司
桐矢 修司
同情? なんだ、それ
三崎 由依
三崎 由依
ここに来る途中に重枝のおばあちゃんに会った
三崎 由依
三崎 由依
あんたに助けてもらって感謝してたよ。桐矢は心があったかい子だって
桐矢 修司
桐矢 修司
俺が重枝のばあちゃんを助けたのも同情だって言いたいのかよ?
三崎 由依
三崎 由依
そういうわけじゃないけど、桐矢は困ってる人を見つけたら無視できないじゃん
三崎 由依
三崎 由依
だから私のことも………
桐矢 修司
桐矢 修司
俺はお前のこと、可哀想だって思ったことなんて一度もないし、こうやって声をかけるのだって同情なんかじゃねーよ
桐矢 修司
桐矢 修司
あんまり見くびんなよ、俺のこと
修司が少し怖い顔をした。

私は彼の正義感を否定したかったわけじゃない。

ただ、ただ……あの日、偶然にも私のことを助けてしまったせいでそれ以降も自分が守らなければいけないと思わせているなら申し訳ないと思っているだけ。

それを修司に伝えたいだけなのに、うまい言葉が見つからない。
三崎 由依
三崎 由依
気にさわったならごめん。でも私のことはもう気にしなくていいから。じゃあね
桐矢 修司
桐矢 修司
おい、由依、待てって! 俺は同情なんかじゃなくてお前のことが………
彼がなにかを言おうとしていたけれど、私は逃げるようにその場から離れた。

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