side 愛花
歩き始め、学校から少し離れて来たところで歩夢が口を開く。
ぶーっと少し頬を膨らませる姿はまるで幼稚園生のようだ。
どうやら、取り立てて何も無かった今日が不満だったみたい。
とはいえ私だって鬼じゃない。
あんなもの転校初日に見るのには少し刺激が強すぎるでしょう?
そう、わかっているはずなの。
今、自分がどんな状況で、自分の所為で周りにどんな被害がでているのかを想空はちゃんと理解しているはず。
あの子が他人に心を許しすぎて、私がそれを見落としていた。
あの子もあの子でタチが悪い。
私が音羽と付き合うことに反対するって分かってて、何も言わずに付き合い始めたんだから。
悠叶には相談してたって?笑わせないでよ。
あの子を買ったのは私。
あの子は私のモノなの。
あの子は、想空は、私のお人形なのに。
握りしめた拳に爪がくいこむ。
行き場のない怒りをぐっと堪え、1度、深呼吸をした。
いつの間にか隣にいた2人に遅れをとっていたようで、数メートル程の間があいている。
現状、私達を止めるクラスメイトなんていない。
みんな自分を守るのに必死だから。
それは先生だって例外じゃない。
きっとあの人は気づいてる。
けど、プライドが高いから自分の受け持つクラスでそんなことが起きてるなんて、自ら言うはずがない。
見て見ぬふりってやつ。
これでいいはずなのに、充実しているはずなのに、心に穴が空いているみたいで物足りない。
2人はどう思っているんだろう。
歩夢はともかく、優羽は………
まあいい、こんなこと考えても何にもならない。
今が楽しいんだからそれでいいはずだ。
遅れていた足を早めて、2人に追いついた。
他愛のない話をして今日を終える。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。