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第21話

七夕の空に願いを込めて ー翔ー
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2022/07/27 03:30
あの夜から1年。七夕の誕生日でも、命日でもある7月7日。僕は今、七夕のお墓の前で手を合わせている。
翔(かける)
翔(かける)
お誕生日おめでとう、七夕。
七夕が大好きだったケーキと、七夕が作ってくれたアルバム、そして、あの時渡すはずだった指輪をお供えして、七夕の誕生日を祝った。
翔(かける)
翔(かける)
いつになったらプロポーズOKしてくれるんだよ。
翔(かける)
翔(かける)
ずっと待ってるんだよ。
僕は今でも、あの頃のまま。ずっと立ち止まったままの僕を七夕はどう思っているんだろう。
翔(かける)
翔(かける)
このアルバムにどんどん写真付け足していこうよ
翔(かける)
翔(かける)
一緒に
アルバムを開いては閉じ、1ページ目から進められないまま、七夕に向かって話しかける。
しばらく、ここにいた後、ケーキとアルバムと指輪を持って、家まで歩いた。七夕と歩いた道をたった1人で。
家に着いても、気持ちが晴れることは無い。こんなことなら、いっそ忘れたい。全て忘れてしまいたい。だけど、できない。七夕の思いを受け取ったから。ガラッとしてしまった部屋の中で、そう思った。
いつかは前に進まなければならない。これ以上は止まっていられない。1年もたったんだから。でも、七夕のことは忘れない。その証に、笹の葉に婚姻届を結びつけた。そして、空を見て願ったんだ。
翔(かける)
翔(かける)
僕もいつか、そっちへ行ったら結婚しよう。
翔(かける)
翔(かける)
だから、七夕、天の川で待っててね。
美咲(みさき)
美咲(みさき)
っていう言葉で終わるんだよね。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
知ってる。私が書いたから。
美咲(みさき)
美咲(みさき)
最後は七夕らしくて、最高だよ!
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
ありがとう。
七夕が書いたこの本、「七夕の空に願いを込めて」は爆発的なヒットになった。
この作品は僕と七夕の出会いから1年前の今日までを、想像と現実を掛け合わせたフィクションで物語る。
実際、僕達は1年前の今日、7月7日、25歳で結婚をし、夫婦となった。そして、今日、七夕は26歳になった。
作品の中では、2度目の事故で七夕がなくなっているが、現実ではそうじゃない。事故が2回あったのも本当だし、車椅子の生活をしているのも本当だ。だけど、今、僕の隣には笑っている七夕の姿がある。触ることもできるし、話すこともできる。幽霊じゃないからね。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
翔、飲み物とって。
翔(かける)
翔(かける)
どれ?
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
オレンジ
結婚してから、七夕は僕のことを"翔"と呼んでくれるようになった。別に、僕はどっちでもいいって言ったんだけど、結婚したら変わるんだって。
最初の方は"しょうくん"じゃないのが、逆に慣れなかったけど、今では、"しょうくん"って響きに懐かしささえ感じる。
美咲(みさき)
美咲(みさき)
じゃ、私はこれで帰るね。
翔(かける)
翔(かける)
またいつでも来てください。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
じゃあね!
翔(かける)
翔(かける)
僕達もそろそろ行く?
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
そうだね。
美咲さんが帰り、僕達もある場所へ向かう。なんてったって、今日は7月7日だからね。車に乗って、2人で、あの場所へ向かった。
翔(かける)
翔(かける)
懐かしいね。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
懐かしいって、去年も来たでしょ?
翔(かける)
翔(かける)
だけど、懐かしく感じるんだよ。ここが思い出の場所だから。
翔(かける)
翔(かける)
七夕、お誕生日おめでとう。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
ありがとう。
2年前の24歳の今日、この場所でプロポーズすることはできなかった。だけど、1年前の25歳の今日はプロポーズすることができた。あの日がなければ、きっとこうした幸せはなかっただろう。
七夕の本を読んでから、今ある当たり前が、当たり前ではないことに気付かされるようになった。それを教えてくれたのは七夕で、当たり前ではない幸せな毎日を作ってくれるのも七夕だ。感謝してもしきれないほどに。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
しょうくん!
翔(かける)
翔(かける)
もうその呼び方やめたんじゃなかったの?
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
ここではいいの!
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
思い出の場所だから。
翔(かける)
翔(かける)
そっか、そうだね。
あれから、アルバムにも2人の写真が増えた。七夕が大好きな空の写真も。
翔(かける)
翔(かける)
やっぱり、夜来るのがいいね。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
しょうがないよ。
翔(かける)
翔(かける)
うん。危ないからね。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
来年は夜来れるかな?
翔(かける)
翔(かける)
どうだろう。大変そうだよ。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
まだ歩けないから平気じゃない?
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
翔は大変だけど。
翔(かける)
翔(かける)
来年になったら、また考えよう。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
うん!
今日、夜来れなかったのには理由がある。今、七夕のお腹には1つの命が宿っている。何かあってからでは危ないからって、明るいうちに来ることにしたんだ。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
来年は3人で来ようね。
翔(かける)
翔(かける)
絶対ね。
翔(かける)
翔(かける)
夕方になったから、暗くなる前に帰ろうか。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
うん。
僕と七夕の薬指に、幸せを形どったような小さな光が輝いている。
僕は空に向かって願いを込める。
これからもずっとこの幸せが続きますように。
まだ明るい夕方の空には、小さく1つ、一番星が輝いていた。

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