第16話

変わらない現実 ー七夕ー
98
2022/07/24 13:19
退院してから2週間がたった。私は今、車椅子生活の大変さに打ち付けられている。しょうくんが必死で助けてくれるけど、毎日しょうくんがいてくれるわけじゃないし、しょうくんにだって仕事がある。病院にいた頃は、毎日お昼の時間を削ってくれてまで来てくれたけど、今はそうもいかない。病院に行くにもしょうくんの助けが必要だ。だから、病院の先生にもリハビリの先生にも相談して、時間をずらしてもらったし、家で出来ることを最低限はする約束をした。
なのに、1人でできることが少なすぎて、、、前と比べてしまっている自分自身も悪いのはわかるけど、やっぱり悔しいよ。
だけど、しょうくんが支えてくれるのを裏切りたくないから、頑張りたい。
翔(かける)
翔(かける)
ただいま。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
おかえり。
翔(かける)
翔(かける)
今日は大丈夫だった?
しょうくんは帰ってくると、必ず私の心配をしてくれる。初めは、慣れなくて、昔のしょうくんよりもミスして、指切ったり、車椅子のまま転がっちゃったりしてたからなんだと思う。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
今日は大丈夫だったよ。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
だけど、
翔(かける)
翔(かける)
だけど?
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
ううん、やっぱなんでもない。
翔(かける)
翔(かける)
ほんとに?
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
うん。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
ね、買い物行こ!
翔(かける)
翔(かける)
そうだね。
翔(かける)
翔(かける)
ちょっと待ってて、今支度するから
本当は、できないことがあったとか、悔しいよとか言いたいけど、今こうやって家にいれるだけでもすごいことなんだし、それをわかってるから言わないでおいた。しょうくんが支えてくれるのに甘えっぱなしも良くないけど、焦って今以上に迷惑かけるのはもっと良くないから。
歩いてすぐのスーパーに2人で夕飯の買い物に行く。それだけで、幸せなことだってわかってるから、何も言わない。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
今日は何にしようか
翔(かける)
翔(かける)
七夕は何が食べたい?
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
今日も私のリクエストなの?
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
たまにはしょうくんのでいいのに。
翔(かける)
翔(かける)
いいよ。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
今日は、中華がいいな〜
翔(かける)
翔(かける)
中華は麻婆豆腐と餃子くらいしか作ったことないかな。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
餃子にしようよ!2人で最初から作るの
翔(かける)
翔(かける)
わかった。
このあと、餃子を作るのに必要なものと明日の朝ごはんのものを買って、家に帰った。
翔(かける)
翔(かける)
これ切れる?
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
はーい
退院してすぐに、高さが変えられる机を買った。椅子に座っても、車椅子のままでも、これ一つあれば楽だからって、しょうくんが調べてくれてた。
これがあるからか、料理もキッチンに立たなくてもできるようになった。ガスとか水道は使えないからそれ以外だけだけど。
私は包丁を握り、餃子に入れるキャベツとニラを切る。
翔(かける)
翔(かける)
こっちはできたよー
しょうくんがお肉と、皮と、トレイを持って来た。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
私もできた。
翔(かける)
翔(かける)
じゃあお味噌汁だけ作っちゃうから、皮で包んどいてくれる?
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
わかった!
しょうくんがお味噌汁を作ってくれている間に、餃子を焼く直前までの状態に仕上げる。私は手先が器用な方だから、割と綺麗な形でできてると思う。ただ、ちょっとおっきかったかも、、
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
ごめん、おっきく作りすぎたかも、、
翔(かける)
翔(かける)
いいんじゃない?
翔(かける)
翔(かける)
食べ応えがあって。
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
食べ切れるかな〜
翔(かける)
翔(かける)
七夕は食べないとダメだよ?
七夕(なゆ)
七夕(なゆ)
太っちゃうじゃん。
運動量が断然に落ちて、体にお肉がつきやすくなった。トレーニングもしにくいし、食事量で調節しないといけない。けど、しょうくんは食べなすぎだ、って。体調を壊してないから、大丈夫なのにね。
私が作った餃子をしょうくんが焼いてくれて、大きな餃子が出来上がった。大きかったからちょっと熱すぎて、食べるのに苦労したけど、すごい美味しかった。2人で作る料理はやっぱり幸せを運んでくれる。欲を言えば、キッチンに立って、2人で作りたいんだけど、、、
このあとは、お風呂に入って、マッサージと簡易的なリハビリをする。するって言うか、全部やってくれるんだけど、、
最近考えるようになったのは、こうなる前のこの時間は私たちは何をしてたんだろうって。戻ることが出来ないとわかってから、昔のことを振り返らないようにしてきた。そのためにも、アルバムを作って、思い出を閉じ込めた。だけど、いざこうやって環境が元に戻ると、心が走り出してしまう。
どこかで、諦めきれていない自分がいる 。そんなことはわかってたのに、、、

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