第38話

& 🐴 -3つ数えたら-
310
2020/10/01 10:45









風が吹いた。








天気のいい日。放課後の静かな教室。







どぎょむ
どぎょむ
3つ数えたら、目開けてね?








これは彼の口癖。








仕方がないので目を閉じる。








(なまえ)
あなた
いーち
(なまえ)
あなた
にー……






何回やられてもやっぱりドキドキする、この瞬間。







(なまえ)
あなた
さーん!










目を開けると、










彼はいなくなっていた。












(なまえ)
あなた
ぎょむちゃん………?








私の小さな声は、風に流されて消えていった。











┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈







ほし
ほし
あなた、まだ落ち込んでる……?
(なまえ)
あなた
あぁ……すにょん
(なまえ)
あなた
落ち込んでなんかないよ〜!私は元気です!





作り笑顔。





目の前の親友にはすぐに見抜かれる。







ほし
ほし
無理しちゃダメだからね
(なまえ)
あなた
…………はーい









私たちの親友──ぎょむちゃんがいなくなったのは先週のこと。








あの日、私の目の前からいなくなった後



彼は他の学校に転校して行った。








私もすにょんも、ぎょむちゃんから何も聞かされていなかった。












いつも明るくてちょっぴりうるさい私たち3人組も、




ぎょむちゃんがいないとすごく静か。







(なまえ)
あなた
少しくらい、相談してほしかったよ






ぎょむちゃん。




私たちってそんなに頼りなかった?












┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈










彼の転校から2週間ほど過ぎた。








今日もぼーっとしていた私は、気づいたら放課後に教室で寝てしまっていた。
















夢の中で、ぎょむちゃんの声がした。










' いーい?3つ数えたら……… '






















どぎょむ
どぎょむ
目開けてね?







突然意識がはっきりした。







目の前でぎょむちゃんの声がする。




夢、じゃない。













私は目を開きたいのを必死にこらえて、数を数えた。









(なまえ)
あなた
いーち
(なまえ)
あなた
にー………







声が震えて、まぶたがじんわりと湿る。








(なまえ)
あなた
さん………!








ぎょむちゃんの顔は見えなかった。









代わりに、ぎょむちゃんの温もりが直に伝わってきた。









どぎょむ
どぎょむ
ただいま
(なまえ)
あなた
ぎょむちゃ………






彼は私を暖かく包み込んだ。












どぎょむ
どぎょむ
突然お父さんの転勤が決まってね
どぎょむ
どぎょむ
あなたたちには言えなかったの
どぎょむ
どぎょむ
2人と離れるのが………嫌だったからっ!






ぎょむちゃんは泣いた。






私はゆっくりぎょむちゃんをなでる。






(なまえ)
あなた
離れないよ、一生離れない
どぎょむ
どぎょむ
あなた…………














風が吹いた。






夕日がまぶしい。放課後の静かな教室。



どぎょむ
どぎょむ
3つ数えたら、目開けてね?












私は心の中で3つ数えた。








目を開ける。









どぎょむ
どぎょむ
好き












くちびるが重なった。











目を開けても、彼はまだそばにいてくれた。






















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