思わず泣き出したい時が人間にはある。
例えば転んで痛かった時?
苦手な食べ物をゆっくり飲み込んだ時?
みんなの前で先生に怒られた時?
僕の場合それは、目の前で好きな人の恋が成立した時だった。
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あなたと僕は大の仲良しで、いつも行動を共にする仲だ。
だからまあ、なんとなく勘づいていた。
あなたがじゅん様のことを好きなんじゃないかって。
本人に聞いたことはなかったけど、あなたの態度で僕にはバレバレだった。
僕はあなたのことが好きなのに。
とある日、僕は聞いてしまう。
じゅん様とみんはお様が喋っている所を。
思わず顎が外れそうになる。
僕とじゅん様じゃ比べ物にならない。
完全に、負けだ。
自分の幸せを手にするか、あなたの幸せを願うか。
次の日、僕はあなたに言った。
僕は、あなたの幸せを願った。
僕は悪者にはなりたくない。
脇役でいい。
いいタイミングでじゅん様が来た。
あなたが泣いている。
それからのことを僕はよく覚えていない。
僕も泣くのに必死だったから。
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完璧な王子のじゅん様と、脇役の僕。
おとぎ話のハッピーエンドは王子様が持っていく。
脇役は黙って泣いているだけ。
僕は、それでいいの?
少しくらい脇役のかっこいいシーンがあったっていい。
自分で、作ればいい。
気づけば屋上は僕とあなたしかいなかった。
僕はあなたに向き直った。
最後って決めたから。
もうきっぱり諦めるから。
─脇役の僕にも1回だけ、王子様役をやらせてください。
精一杯の笑顔で、言った。
あなた、
ありがとう。さよなら。愛してる。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。