血の池ビーチを囲む白い砂浜に、アズサと香瑠は並んで座っている。
エルは香瑠の仕事を調整するために、一足先に城へ戻っていた。
黒ずんだ赤い液体が、ザザーンと砂を撫でるように打ち寄せては戻っていく。
香瑠が目をキュッと細め、無邪気な顔で笑った。
いつか華凛が言っていたことを思い出す。
は次期魔王である香瑠は、甘えることも守られることも、気の抜けた笑顔を見せることすら許されない存在なのだ、と。
城のインプたちの噂話からも、香瑠が相当自分に厳しくしていることがうかがえた。
当時を思い出したのか、香瑠はなつかしそうに目を細めて、赤い池の彼方を見つめた。
それはそれで気になるところだが、アズサには他にも気になることがあった。
その言葉を聞いた途端、香瑠の顔がみるみる曇ってゆく。
香瑠が叶わない相手。
冷酷で残虐と言われる悪魔王子の父親。
その姿を、アズサが想像したその時だった。
ハッとした顔で、香瑠が素早くアズサを抱き寄せた。
わけもわからないまま、香瑠に抱かれたまま砂浜を転がる。
それから間もなく。
耳を引き裂くような轟音が鳴ると同時に、暗雲を裂いて一筋の赤い雷が降ってくる。
衝撃に思わず目をつむったアズサが次に見たのは、半径5メートルほどに大きく抉れた砂浜だった。
雷が、さっきまでアズサと香瑠がいたところに直撃したのだ。
ビーチで泳いでいた悪魔たちが、ワーワー騒ぎながら散り散りに退散していく。
先に立ち上がった香瑠に、助け起こされる。
地を這うような低い声。
たった一声で空気がビリビリと震え、頭がぐわんぐわんと揺れるようだった。
目の前に突然現れたのは、2メートルほどの大きな人型のシルエット。
禍々しい黒い靄を全身にまとっていて、顔どころかその姿の詳細もわからない。
唯一わかったのは、そのシルエットの主が圧倒的な存在感と威圧感を放つ、とんでもない禍々しいオーラをまとっていることだった。
聞き慣れない単語に戸惑っていると、魔王の影の後ろからひょっこりと見慣れた悪魔が顔を出した。
魔王の影を取り巻く靄が、ぐるぐると渦巻いた。
そう言うと、香瑠は隣にいたアズサを抱き寄せた。
からかいのない真っすぐな香瑠の言葉に、ドキリとする。
香瑠の赤い目が、じっと魔王を見据える。
しばらくの沈黙。
表情の見えない魔王が、何を考えているのかまったくわからない。
唾を飲むことさえためらわれた静寂を、魔王の一声が打ち破った。
魔王はそう言うと、身を低くして構えを取った。
次の瞬間、魔王が手刀で空気を切り裂くと――
空間が避け、何もないはずのそこにブラックホールのような黒い渦が現れた。
警戒する間もなく、とんでもない力でブラックホールに引き込まれる。
あっという間に体が真っ暗な闇に飲まれていく。
どこからか声が聞こえてくる。
嘲るような笑い声を聞きながら、アズサは意識を手放したのだった。
<続く……>














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。