第15話

第15話:いざ魔界へ
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2026/01/22 09:00 更新
松風アズサ
松風アズサ
わあ……!
ここが香瑠の住んでるお城?
 エルの協力を得たアズサは、逆召喚という特殊な魔法陣によって香瑠の住む城へとやってきた。
エル
エル
しーっ、静かにしてください!
許可なく人間を魔界に連れてきたと知れたら
私もあなたも焼き鳥じゃ済みませんよ!
 誰にもバレないように、エルは魔法陣を使われていない倉庫に設定したらしい。
エル
エル
良いですか?
これからこっそり殿下の部屋に参りますので
くれぐれもはぐれないように――
 その時、倉庫のドアがドンドンと乱暴に叩かれた。

 エルとアズサの肩がビクッと震える。
おい!
誰かいるのか?
 野太いしゃがれた声が聞こえて、アズサは思わず身をすくませる。
 ここは魔界だ。
 扉の向こうには、悪魔か魔物か、それ以外でも危険な何かがいるに違いない。
松風アズサ
松風アズサ
どうする?
エル
エル
私が先に出てすぐに扉を閉めます。
話しながら扉の前にいる者を別の場所に誘導しますので、
私が戻ってくるまであなたはここでおとなしく隠れていてください
松風アズサ
松風アズサ
わかった
エル
エル
では、扉を開けますよ
 エルと何者かの話し声が遠ざかっていったのを確認して、アズサは倉庫から飛び出した。

 ここに香瑠がいるとわかっているのに、大人しく待ってなんかいられない。

 ――待ってて香瑠。
 今、会いに行くから!





 魔王の住む城というからには、ごつごつした岩で造られた恐ろしい建物を想像していた。
 しかし、実際は中世ヨーロッパにありそうな、人間も住みやすそうな城だった。変わっているところと言えば、扉が人間界のものより二回りほど大きい。
 魔界の生き物は平均身長が高いのだろうか。


 廊下の端っこをこっそり歩いていたアズサは、前方から聞こえてくる話し声に気がついて物陰に身を潜めた。

 そして現れたその声の主を確認して、思わず声を出しそうになってしまった。

――なにあれ……虫歯菌のキャラクター?
ちょっと可愛いかも。

 高い声で話しながらやって来たのは、全長30㎝ほどの小さな生き物たちだった。
 幼児向けの絵本に出てきそうな、虫歯菌のキャラクターによく似たその生き物は、頭に長い二本の角と、長い尻尾をフリフリ揺らしながら歩いてきた。
最近、殿下が人間界からお戻りになったんだってさ
ええっ、それは大変だ。
気を引き締めて仕事しないと
人間界から戻った殿下。
きっと、香瑠のことに違いない。
殿下、かっこいいよな~!
見た目はもちろんだけど、クールに何でもこなすところも憧れるよね。
ちょっと冷たすぎて怖いときもあるけど……
あのお方、自分に厳しいのはもちろん、
他人にも同じくらい厳しいからね
でもさ、自分が完璧にできるからって、
それを僕たちに押し付けるのはちょっとやめてほしいよね~
 虫歯菌(?)たちによる香瑠の噂話を、アズサは興味深く聞いていた。

 人間界にいた時は気ままで遊びたい放題に見えた香瑠だったが、魔界では超ストイックらしい。
香瑠
香瑠
そこのインプども
インプ
ひっ!
インプ
殿下!
 聞きたくて仕方のなかった声に、アズサはハッと目を見張った。

 ――香瑠!

 悪魔姿の香瑠は、自分よりも遥かに小さいインプを見下ろす。

 その表情に、アズサは思わず息をのんだ。

 感情の見えない、淡々とした表情。
 眉を吊り上げているわけでも、目つきを鋭くしているわけでもないのに、その顔を見ただけで畏怖してしまうような冷たい恐ろしさがあった。
香瑠
香瑠
無駄口を叩くほど暇なのか?
インプ
申し訳ありません殿下!
インプ
すぐに持ち場に戻ります!
香瑠
香瑠
そこのお前
インプ
はいっ!
香瑠
香瑠
西の書庫から特級魔法陣の書が持ち出された痕跡がある。
あれは持ち出し禁止のはずだ、すぐに調べろ
インプ
は、はいっ!
あの、持ち出されたのはいつのことで……?
香瑠
香瑠
今朝だ
インプ
今朝!?
殿下、まさか毎日あの膨大な書庫の所蔵確認を
されているのですか……!?
香瑠
香瑠
あそこにあるのは、使い方を間違えれば魔界や人間界が滅びる代物ばかりだ。
確認するのは当然のことだろう
インプ
さすが殿下!
香瑠
香瑠
騒ぐな。
もう行け
 高い声で返事をしながら、インプたちはパタパタと走っていってしまった。

 初めて見る魔界の王子らしい香瑠に、アズサの心は高鳴っていた。

 ちゃんと仕事して、部下に慕われてる。
 香瑠、本当に魔界の王子様なんだ。

 香瑠が一人になり、アズサは今すぐにでも出ていきたかった。
 しかし、人間界とはあまりに違う様子の香瑠にためらってしまう。
香瑠
香瑠
――さて
 香瑠が静かに息を吐いた。
香瑠
香瑠
そこにいるのは誰だ?
 ビリッと、肌を刺すような冷たい殺気が放たれる。
松風アズサ
松風アズサ
 相手は香瑠だとわかっているのに、思わず固まる。

 あっという間もなく目の前に現れた香瑠に、壁に追いつめられる。
 それなりに距離があったはずなのに、ほとんど動きが見えなかった。
松風アズサ
松風アズサ
ひっ
 壁にダンッと手をついた香瑠は、もう片手の手でアズサの顔を掴んで上を向かせると覗き込んできた。

 薬と花が混ざったような、独特な甘い香りがする。

 勝手に震える体に、アズサは初めて会った時の恐怖を思い出した。
香瑠
香瑠
……ん?
松風アズサ
松風アズサ
ひっ、久しぶり……
 香瑠はゆっくりと2回瞬きし、長いまつ毛がそのたびに揺れる。

 目の前にいる相手がアズサだと気がついた香瑠は、それまでの無表情を一変させた。
 同時に、ダイヤモンドダストが香瑠の顔の周りできらめく。
香瑠
香瑠
アズサ……
本当にお前なのか!?
 見慣れた様子の香瑠に、アズサはホッと胸を撫でおろした。
松風アズサ
松風アズサ
うん
迎えに来たの!
 フッと香瑠が顔を綻ばせる。
香瑠
香瑠
王子を迎えに来るなんて、
どっちが姫なのかわからないな
松風アズサ
松風アズサ
どっちだっていいよ、
一緒にいられるなら
 その言葉を聞いた香瑠は大型犬のようにアズサに飛びついて、思い切りその体を抱きしめたのだった。


<続く……>

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