エルの協力を得たアズサは、逆召喚という特殊な魔法陣によって香瑠の住む城へとやってきた。
誰にもバレないように、エルは魔法陣を使われていない倉庫に設定したらしい。
その時、倉庫のドアがドンドンと乱暴に叩かれた。
エルとアズサの肩がビクッと震える。
野太いしゃがれた声が聞こえて、アズサは思わず身をすくませる。
ここは魔界だ。
扉の向こうには、悪魔か魔物か、それ以外でも危険な何かがいるに違いない。
エルと何者かの話し声が遠ざかっていったのを確認して、アズサは倉庫から飛び出した。
ここに香瑠がいるとわかっているのに、大人しく待ってなんかいられない。
――待ってて香瑠。
今、会いに行くから!
魔王の住む城というからには、ごつごつした岩で造られた恐ろしい建物を想像していた。
しかし、実際は中世ヨーロッパにありそうな、人間も住みやすそうな城だった。変わっているところと言えば、扉が人間界のものより二回りほど大きい。
魔界の生き物は平均身長が高いのだろうか。
廊下の端っこをこっそり歩いていたアズサは、前方から聞こえてくる話し声に気がついて物陰に身を潜めた。
そして現れたその声の主を確認して、思わず声を出しそうになってしまった。
――なにあれ……虫歯菌のキャラクター?
ちょっと可愛いかも。
高い声で話しながらやって来たのは、全長30㎝ほどの小さな生き物たちだった。
幼児向けの絵本に出てきそうな、虫歯菌のキャラクターによく似たその生き物は、頭に長い二本の角と、長い尻尾をフリフリ揺らしながら歩いてきた。
人間界から戻った殿下。
きっと、香瑠のことに違いない。
虫歯菌(?)たちによる香瑠の噂話を、アズサは興味深く聞いていた。
人間界にいた時は気ままで遊びたい放題に見えた香瑠だったが、魔界では超ストイックらしい。
聞きたくて仕方のなかった声に、アズサはハッと目を見張った。
――香瑠!
悪魔姿の香瑠は、自分よりも遥かに小さいインプを見下ろす。
その表情に、アズサは思わず息をのんだ。
感情の見えない、淡々とした表情。
眉を吊り上げているわけでも、目つきを鋭くしているわけでもないのに、その顔を見ただけで畏怖してしまうような冷たい恐ろしさがあった。
高い声で返事をしながら、インプたちはパタパタと走っていってしまった。
初めて見る魔界の王子らしい香瑠に、アズサの心は高鳴っていた。
ちゃんと仕事して、部下に慕われてる。
香瑠、本当に魔界の王子様なんだ。
香瑠が一人になり、アズサは今すぐにでも出ていきたかった。
しかし、人間界とはあまりに違う様子の香瑠にためらってしまう。
香瑠が静かに息を吐いた。
ビリッと、肌を刺すような冷たい殺気が放たれる。
相手は香瑠だとわかっているのに、思わず固まる。
あっという間もなく目の前に現れた香瑠に、壁に追いつめられる。
それなりに距離があったはずなのに、ほとんど動きが見えなかった。
壁にダンッと手をついた香瑠は、もう片手の手でアズサの顔を掴んで上を向かせると覗き込んできた。
薬と花が混ざったような、独特な甘い香りがする。
勝手に震える体に、アズサは初めて会った時の恐怖を思い出した。
香瑠はゆっくりと2回瞬きし、長いまつ毛がそのたびに揺れる。
目の前にいる相手がアズサだと気がついた香瑠は、それまでの無表情を一変させた。
同時に、ダイヤモンドダストが香瑠の顔の周りできらめく。
見慣れた様子の香瑠に、アズサはホッと胸を撫でおろした。
フッと香瑠が顔を綻ばせる。
その言葉を聞いた香瑠は大型犬のようにアズサに飛びついて、思い切りその体を抱きしめたのだった。
<続く……>
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。