12月に差し掛かり、すっかり町は冬の装いへと変わった。
香瑠とのデートの待ち合わせ前。時刻は9時45分。
駅のトイレの鏡の前で、アズサは何度もくるくると身をひるがえしていた。
シンプルなスキニージーンズに、丸襟の白いニットの裾をイン。
ダークブラウンのチェックのチェスターコートを羽織り、マスタード色のマフラーをゆるっと首周りに巻いた。
靴は歩きやすいように、黒く磨かれたドレスシューズだ。
それまでアズサの私服とは言えば、似合わないのになんとなく買って着ていたガーリー系のものが多かった。
いまさら自分に何が似合うかわからなくて、デート前に未希にお願いして一緒に服を買いに行ったのだ。
トイレから出ると、駅中の本屋で新刊をチェックしている香瑠を見つけた。
予想した通り、軽く女性の人だかりができている。
香瑠はフードにファーの付いた黒いショートダウンに、細身の黒いパンツを合わせていた。中はブルーグリーンのタートルネックで、細長いトップの付いたネックレスをしているようだ。
細身の香瑠はシルエットの大きなショートダウンが良く似合う。下からスラッと伸びる長い脚が、スタイルの良さを際立たせている。
近づくと、アズサに気がついた香瑠はパッと顔を輝かせた。
手にしていた漫画を丁寧に棚に戻すと、ビュンと目の前に飛んできた。
まっすぐに褒められたのが恥ずかしくて、思わず話題を漫画に逸らした。
さっきまで香瑠が手にしていた漫画を取ろうと手を伸ばす。
しかし、その手は香瑠の手に遮られた。
滑らかで美しいながらも骨ばった大きな手が、アズサの手をギュッと掴む。
不意打ちに驚いてしまったが、香瑠は気にせずにアズサを引っ張って歩き始めた。
黒い瞳が、期待にキラキラと揺れている。
やって来たのは、大きな観覧車が有名な、海の近くにある遊園地。
マスコットキャラのクマのカチューシャやサングラスを付けた人々が、友達や家族、あるいは恋人と楽しそうに行き交っている。
落ち着いているように見せているが、香瑠は内心ワクワクでたまらないと言った様子だ。
魔界に遊園地があるとは思えないから、こういうところは初めてなのかもしれない。
メリーゴーランドでは、同じ馬に2人で乗り――
ジェットコースターでは、落ちる時に手を上げ――
フリーフォールでは、手を繋いで一緒に落ちた。
次に2人が向かったのは、オバケ屋敷だった。
日本の地獄がテーマらしく、外装には大きな地獄絵図が貼られている。
列に並びながら、香瑠は興味深そうに閻魔大王の絵を眺めていた。
自分で歩いて進むタイプのオバケ屋敷で、すぐにアズサたちの順番が回ってきた。
前に並んでいたカップルと同じタイミングで、屋敷内に案内される。
少し歩くと、ガシャガシャと派手な音とともに天井から骸骨が降ってきた。
前を歩くカップルの女性が、骸骨に怖がって男性に抱き着いた。
やっぱり、香瑠もああいうの期待してるんだろうな。
怖がって、思わず抱き着いちゃうみたいなやつ。
しかしアズサは絶叫系はともかく、ホラー系には強かった。
演技でも怖がるべき?
でも、怖くないのバレたら微妙な空気になるよね?
そう言えば香瑠大人しいな、と思ったアズサは隣を見た。
そこには、音もなくガタガタと震えている香瑠がいた。
香瑠が言いかけたその時。
プシューッという音とともに、ボロボロで血だらけの亡者の人形が飛び出てきた。
聞いたこともないような香瑠の高い声が、館内に響き渡る。
アズサがそう囁き、香瑠の汗ばんだ手を握った瞬間、周りにはダイヤモンドダストのキラキラが勢いよく飛び散ったのだった。
朝から晩までアトラクションを遊びつくした2人は、最後に名物の大観覧車に乗っていた。
窓の外には、近くの海と夜景。
そして、遊園地のイルミネーションが輝いていた。
ゆっくりと上昇していくゴンドラに乗っていると、時間もゆっくりと流れていくようだった。
夜景綺麗だね、とか遊び疲れたね、とポツポツ話していた2人だったが、次第に会話のネタもなくなって沈黙が流れ始めた。
夜景をぼんやり眺める香瑠の横顔を見ながら、アズサは何を話そうかと考えていた。
しかし、先に口を開いたのは香瑠のほうだった。
窓の外に顔を向けたまま、香瑠がフッと笑う。
その笑顔が、アズサにはなんだかせつなげに見えた。
また来ればいいじゃん、と返そうとしたアズサはハッと言葉を飲み込んだ。
香瑠はいずれ魔界に帰る。
それは、自分自身が一番望んでいたことだ。
――なのに、どうしてこんなに寂しい気持ちになるんだろう。
お願いを叶えたら、香瑠は本当に魔界に帰ってしまう?
膝に置いた手を、アズサはギュッと握った。
ゴンドラは、もう少しで頂上にたどり着く。
その時。
ガコン、と大きな音とともに観覧車の動きが止まった。
<続く……>















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。