春休みが明け、新学期が始まった。
学校の敷地に咲く桜は満開を迎え、風が吹くたびに花びらが舞うのが、教室の窓からでも良く見える。
そんな爽やかな、まったりとした午後の現代文の時間。
教室の一番後ろの席。
アズサと香瑠は机をくっつけてひとつの教科書を一緒に見ていた。
くっつくのは机だけで良いはずなのに、香瑠は椅子まで動かしてアズサにぴったりと密着していた。
試練を突破し、無事魔王に認められたアズサ。
魔王にお願いして、香瑠が再び人間界の高校に通えるよう許可をもらったのだった。
香瑠は当然大喜びし、相変わらず大好きな少女漫画の青春ラブをアズサに求めまくっている。
平和な日常が続いていた。
移動教室。
誰もいない渡り廊下を歩いていると、香瑠が唐突にアズサの手を掴んだ。
歩みを止めた香瑠が、アズサの手を強引に引っ張った。
香瑠の胸に、トン、とぶつかる。
いつもの香瑠の、薬草や花が混じったような甘くて不思議な香りがする。
アズサの好きな香りだ。
香瑠の手がアズサの頬を撫でる。
香瑠の美しく整った顔が近づいてきて――
華凛に後ろから突進にされたことによって、止まった。
香瑠を押しのけ、アズサの目の前に現れた華凛。
自分の可愛さをよくわかっている彼女は、小柄な体と大きな瞳を存分に活かし、甘えるような上目遣いをアズサに向けた。
コツコツと靴を鳴らしてやってきたのは、エルだった。
エルは魔王様の言いつけで、香瑠とアズサを見守るために教師として潜入していた。
担当は生物で、生物室にある鳥のはく製を見るたびに悲しげな顔をしている。
回れ右をしてこっそり逃げようとしたアズサだったが、廊下の先に未希がいることに気がついた。
未希はタッタッと小走りでアズサの元にやって来る。
シュバッと、華凛がいち早く手を挙げる。
しばらく静かだと思っていた香瑠が、ぷるぷると拳を震わせていた。
香瑠の絶叫が、渡り廊下に響き渡った。
ムスッとした香瑠を追いかけて、アズサは中庭にと出た。
中庭の端にある大きな桜の木の下に、香瑠はボスンと座り込んだ。
アズサもその隣に腰を下ろす。
あからさまに不機嫌を前面に出している香瑠に、アズサは思わずクスッと笑った。
アズサが香瑠の髪についた桜の花びらを取りながら笑うと、香瑠は顔を赤くしてキラキラを放出させた。
だって本当のことだ。
嫉妬して拗ねるなんて、可愛い以外の何物でもない。
香瑠は期待に満ちた楽しそうな表情で口角を上げた。
ゴホン、と咳ばらいをしてからアズサは隣に座る香瑠と目を合わせた。
――青春ラブポイントその100。
桜の木の下で告白し、恋を実らせる。
香瑠が妖艶な笑みを浮かべて顔を近づけて来る。
その香瑠の細い顎を、アズサは優しく掴むとクイッと持ち上げた。
香瑠の薄い唇にしっとりと唇を重ねる。
ゆっくり離れていくと、ゆるやかに目を開けた香瑠と目が合った。
――青春ラブポイントその100。
桜の木の下で告白し、恋を実らせる。
――そして、最後に幸せなキスをする!
風が吹くと辺りには桜の花びらが舞い、きらめくダイヤモンドダストがキラキラとその風景を彩ったのだった。
<おわり>


















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。