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第20話

第20話:新しい日常へ
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2026/02/26 09:00 更新
 春休みが明け、新学期が始まった。
 学校の敷地に咲く桜は満開を迎え、風が吹くたびに花びらが舞うのが、教室の窓からでも良く見える。

 そんな爽やかな、まったりとした午後の現代文の時間。
松風アズサ
松風アズサ
……香瑠さん
香瑠
香瑠
なんだ
松風アズサ
松風アズサ
ちょっと近いんじゃないですか
 教室の一番後ろの席。
 アズサと香瑠は机をくっつけてひとつの教科書を一緒に見ていた。

 くっつくのは机だけで良いはずなのに、香瑠は椅子まで動かしてアズサにぴったりと密着していた。
香瑠
香瑠
お前知らないのか?
青春ラブポイントその98『教科書を忘れて隣の人と急接近!』だぞ
松風アズサ
松風アズサ
私普通に授業受けたいんだけど
 試練を突破し、無事魔王に認められたアズサ。
 魔王にお願いして、香瑠が再び人間界の高校に通えるよう許可をもらったのだった。

 香瑠は当然大喜びし、相変わらず大好きな少女漫画の青春ラブをアズサに求めまくっている。
 平和な日常が続いていた。



 移動教室。
 誰もいない渡り廊下を歩いていると、香瑠が唐突にアズサの手を掴んだ。
香瑠
香瑠
青春ポイントその99――
松風アズサ
松風アズサ
『誰も見ていないところでこっそり手を繋ぐ?』
香瑠
香瑠
ご名答
松風アズサ
松風アズサ
香瑠のやりたいことは大体わかってきたよ
香瑠
香瑠
じゃあ、記念すべき『その100』でやりたいことが何かわかるか?
松風アズサ
松風アズサ
え?
 歩みを止めた香瑠が、アズサの手を強引に引っ張った。
松風アズサ
松風アズサ
わっ
 香瑠の胸に、トン、とぶつかる。
 
 いつもの香瑠の、薬草や花が混じったような甘くて不思議な香りがする。
 アズサの好きな香りだ。
香瑠
香瑠
ヒントをやろうか
 香瑠の手がアズサの頬を撫でる。
香瑠
香瑠
まだ俺たちが一度もしたことがないこと、だ
松風アズサ
松風アズサ
それって……
香瑠の美しく整った顔が近づいてきて――
華凛
華凛
アズサ様~!!
香瑠
香瑠
へぶっ!
 華凛に後ろから突進にされたことによって、止まった。
香瑠
香瑠
何をする!
 香瑠を押しのけ、アズサの目の前に現れた華凛。
 自分の可愛さをよくわかっている彼女は、小柄な体と大きな瞳を存分に活かし、甘えるような上目遣いをアズサに向けた。
華凛
華凛
アズサ様、殿下なんか放っておいて2人で教室に向かいましょうよ!
香瑠
香瑠
なんかとはなんだ!
華凛
華凛
だって、殿下より私の方が愛嬌があって可愛らしいですわ
香瑠
香瑠
俺だって負けず劣らず可愛い!
エル
エル
やめてくださいよ、
次期魔王にそぐわない発言は
 コツコツと靴を鳴らしてやってきたのは、エルだった。
松風アズサ
松風アズサ
エルさん、止めてくださいよこの2人
エル
エル
嫌です、巻き込まれたくありませんから。
そしてアズサさん、ここではエル先生でお願いします
 エルは魔王様の言いつけで、香瑠とアズサを見守るために教師として潜入していた。
 担当は生物で、生物室にある鳥のはく製を見るたびに悲しげな顔をしている。
松風アズサ
松風アズサ
じゃあ私はこの隙に1人で移動しようかな……
 回れ右をしてこっそり逃げようとしたアズサだったが、廊下の先に未希がいることに気がついた。

 未希はタッタッと小走りでアズサの元にやって来る。
波野未希
波野未希
アズサ~良いところに!
みんなも揃ってるね
松風アズサ
松風アズサ
どうしたの?
波野未希
波野未希
文化祭の演劇の時のアズサのね、白騎士ブロマイド新しいの作ったの!
見る?
 シュバッと、華凛がいち早く手を挙げる。
華凛
華凛
見ますわ! 10枚買いますわ!
波野未希
波野未希
華凛ちゃんお買い上げ
ありがとうございま~す!
10枚購入の方には特典で非売品ブロマイドを1枚つけちゃう!
エル
エル
仕方ありませんね、魔王様にも頼まれていますし30枚ほど買いましょう
波野未希
波野未希
エル先生! 
生物の課題を1ヶ月免除してくれたらとっておきのオフショットをおまけに……
松風アズサ
松風アズサ
みっちゃん商売上手だね
香瑠
香瑠
お前ら、揃いも揃って何十枚も……
 しばらく静かだと思っていた香瑠が、ぷるぷると拳を震わせていた。
香瑠
香瑠
アズサは俺のだと言っているだろうが!!
 香瑠の絶叫が、渡り廊下に響き渡った。





松風アズサ
松風アズサ
拗ねないでよ香瑠、
ブロマイドはもうやめてもらうからさ
香瑠
香瑠
拗ねていない。
機嫌が悪いだけだ
 ムスッとした香瑠を追いかけて、アズサは中庭にと出た。

 中庭の端にある大きな桜の木の下に、香瑠はボスンと座り込んだ。
 アズサもその隣に腰を下ろす。

 あからさまに不機嫌を前面に出している香瑠に、アズサは思わずクスッと笑った。
香瑠
香瑠
なにがおかしい
松風アズサ
松風アズサ
いや、拗ねた顔も可愛いなと思って
 アズサが香瑠の髪についた桜の花びらを取りながら笑うと、香瑠は顔を赤くしてキラキラを放出させた。

 だって本当のことだ。
 嫉妬して拗ねるなんて、可愛い以外の何物でもない。
松風アズサ
松風アズサ
ねえ、私わかったよ。
香瑠が記念すべき青春ポイントその100で何をしたいのか。
『君悪』のあのシーンだよね?
 香瑠は期待に満ちた楽しそうな表情で口角を上げた。
香瑠
香瑠
やってみせろ
 ゴホン、と咳ばらいをしてからアズサは隣に座る香瑠と目を合わせた。

 ――青春ラブポイントその100。
 桜の木の下で告白し、恋を実らせる。
松風アズサ
松風アズサ
香瑠、好きだよ!
香瑠
香瑠
フン、ド直球だな。
悪魔を本気にさせた責任、取ってくれるんだろうな?
 香瑠が妖艶な笑みを浮かべて顔を近づけて来る。
 
 その香瑠の細い顎を、アズサは優しく掴むとクイッと持ち上げた。
 
 香瑠の薄い唇にしっとりと唇を重ねる。
 ゆっくり離れていくと、ゆるやかに目を開けた香瑠と目が合った。
松風アズサ
松風アズサ
魔界まで迎えに行った覚悟をみくびらないでくれる?
一生そばにいてもらうからね
香瑠
香瑠
っ……
俺のアズサが今日もかっこいい…!!
 ――青春ラブポイントその100。
 桜の木の下で告白し、恋を実らせる。

 ――そして、最後に幸せなキスをする!

 風が吹くと辺りには桜の花びらが舞い、きらめくダイヤモンドダストがキラキラとその風景を彩ったのだった。


<おわり>

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