第18話

第18話:試練を突破する方法とは
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2026/02/12 09:00 更新
 目を覚ましたアズサは、周りをキョロキョロと見回した。
 どこを見ても真っ暗だ。

 重い体を起こし、立ち上がる。
松風アズサ
松風アズサ
どこ、ここ……
 暗闇に目が慣れてくると、細長い幹や低い枝のシルエットが視界に浮かんでくる。
 どうやら森の中らしい。
 しかし、湿った土の匂いも草の香りもなく、代わりに何かが腐敗したような臭いだけが重く漂っていた。
松風アズサ
松風アズサ
そうだ、香瑠は?
香瑠
香瑠
……いる
松風アズサ
松風アズサ
うわっ!
何してんの、そんなとこに丸まって
 案外近くにいた香瑠は、大きな木の幹に背中を預け、膝を抱え座っていた。
 大きな体を小さくして、空気と同じようにどんよりとした目をしている。
香瑠
香瑠
……おしまいだ
松風アズサ
松風アズサ
え?
香瑠
香瑠
やっぱり親父殿に逆らうんじゃなくて
隙をついてアズサを連れてこっそり逃げれば良かった
松風アズサ
松風アズサ
何言って……
香瑠
香瑠
逃亡先の小さな小屋でアズサと2人暮らし……
アズサの獲ってきた獣や魚を俺が調理して2人で食べて……
ふふ、貧乏でもアズサがいればそれで良い……
 ブツブツと現実逃避を始めた香瑠。
 アズサはそんな香瑠の肩を掴んでゆっさゆっさと揺らした。
松風アズサ
松風アズサ
ちょっと!
さっきまでのかっこいい香瑠はどこ行ったの!?
 虚ろな目をした香瑠が、アズサを見上げる。
香瑠
香瑠
『闇世界の森』に送られた者は
二度と帰ってこられないという噂がある
松風アズサ
松風アズサ
『闇世界の森』?
ここが?
香瑠
香瑠
魔界でも重大な罪を犯した者が送られる処刑場のようなものだ。
なんでも、凶暴な異形の魔物で溢れているとか――
 香瑠の言葉をさえぎるように、
 ガサッ、と茂みの奥から物音が聞こえた。

 2人は咄嗟に視線をそちらへ向ける。

 するとその茂みから、おぞましい生き物が這い出てきた。
松風アズサ
松風アズサ
なにあれ、ゾンビ犬!?
 例えるなら、死んで腐ったさまざまな動物たちの成れの果て。

 異臭を放ち、ところどころ骨がむき出しになった魔物たちが、次々と湧いて出てきた。
 ゆっくりと、アズサと香瑠の周りを取り囲んでいく。

松風アズサ
松風アズサ
これは……
だいぶマズい状況では?
香瑠
香瑠
アズサ、先に言っておく。
どうやら悪魔の力は父に封印されたらしい。
今の俺はただの人間と同じだ
松風アズサ
松風アズサ
……ということは
 首がちぎれかけた狼のような魔物が、ついに2人に襲いかかってきた。
香瑠
香瑠
盾になってやることしかできない!
 バッと香瑠がアズサの前に飛び出す。
 その腕に、狼の魔物がガブリと噛みついた。

 赤い血が飛び散る。
松風アズサ
松風アズサ
香瑠!
香瑠
香瑠
逃げろ!
少しなら時間を稼いでやれる……!
 ――私を庇っておとりになるつもり?
 いつも、喰ってやると脅していたくせに。
松風アズサ
松風アズサ
今さら何かっこつけてんの!
 アズサは落ちていた木の枝を引っ掴むと、それを香瑠の腕に噛みついていた狼の魔物に叩きつけて振り払った。。

 そして香瑠を後ろに庇いながら、魔物たちに向かって木の枝を突きつける。
香瑠
香瑠
無茶だアズサ!
この森からは出られない。
戦っても勝ち目は――
松風アズサ
松風アズサ
そんなの、ただの噂でしょっ
 猪の魔物が突進してくる。
 アズサはひらりと身をかわすと、折れないよう枝をぐっと握りしめ、狙いを外さぬよう先端を魔物の眼へと鋭く向けた。
 突進してきた魔物は、自らの勢いでその枝の尖端が眼球を貫き――呻き声をあげてドサリと崩れ落ちた。
香瑠
香瑠
ア、アズサ……?
どこでそんな技を
 もちろん漫画だ。
松風アズサ
松風アズサ
私を妻に迎えたいんでしょ?
絶対、無事にここから出るよ
 新しい木の枝を手にしたアズサは、鋭く魔物たちを睨みつけた。
香瑠
香瑠
っ……、さすが俺のアズサ!
 トン、とアズサの背中に何かが重なる。
 香瑠がアズサの背中に自分の背中を合わせて立ったようだ。
香瑠
香瑠
俺も腑抜けてはいられないな
松風アズサ
松風アズサ
次期魔王として?
香瑠
香瑠
アズサの未来の夫として、だ
 お互いの背中を預けた2人は、襲い掛かってくる魔物たちを次々と薙ぎ払っていったのだった。





 いくら倒しても倒しても、次々に魔物は湧いて出てくる。
 さすがのアズサと香瑠も、もう息は絶え絶え、ボロボロになっていた。
松風アズサ
松風アズサ
いくらなんでも多すぎない?
魔物の無限湧きポイントでもあるの……?
香瑠
香瑠
『闇世界の森』は魔王の想像した死の森を
具現化したものだ
松風アズサ
松風アズサ
……つまり?
香瑠
香瑠
魔王の想像を超える能力や機転がないと突破できない
 話している間にも、魔物は容赦なく襲ってくる。

 この森も魔物もすべて、魔王の思考から生み出されたもの。であれば、魔王と同じ悪魔である香瑠よりも、人間のアズサのほうが思いがけない方法で突破できるということだろうか。
 ――ふとアズサの中にある考えがよぎる。
 それと同時に、香瑠の背中に向かって爪の鋭い魔物が飛びかかっていくのが見えた。
松風アズサ
松風アズサ
危ない!
 咄嗟に香瑠を突き飛ばす。
 熱い、と思った時には、突き飛ばした腕から血が噴き出していた。
香瑠
香瑠
アズサ!
 血相を変えた香瑠がアズサに駆け寄ってくる。
 傷口を押さえる香瑠の手が、血で汚れていく。
松風アズサ
松風アズサ
……香瑠、私の魂を食べていいよ
香瑠
香瑠
は……?
松風アズサ
松風アズサ
悪魔って、魂を食べたら力を得ることができるんでしょ?
香瑠
香瑠
こんなときに、なんの冗談を
松風アズサ
松風アズサ
いくら魔王でも
実の息子を見殺しにしたりしないと思うの
香瑠
香瑠
それは、親父殿ならやりかねんが……
松風アズサ
松風アズサ
香瑠も気づいているでしょ?
私たちの仲を認めたくない、魔王様の残酷な『試練』を
 最初から魔王は、アズサを認めるつもりなどない。
 魔王の狙いは、この森から抜け出すために、香瑠にアズサの魂を食べさせることだ。

 止血していた香瑠の腕を引きはがす。
 そのまま、自分の首元に強く押し当てた。

 目を見開いて手を引こうとした香瑠の手を、離れないように強く握りしめる。

香瑠
香瑠
離せ!
松風アズサ
松風アズサ
よく言ってたじゃん。
魂を抉って喰ってやるって
香瑠
香瑠
そしたらお前は死ぬんだぞ!
松風アズサ
松風アズサ
香瑠が無事に生きてくれるなら
私の命なんていくらあげたって構わない!
香瑠
香瑠
……っ!
 香瑠の周りに、キラキラが舞う。

 しかし、そのダイヤモンドダストはいつもと明らかに違っていた。
 粒はひときわ大きく、本物のダイヤモンドさながらに七色の光を放つ。
 やがてその輝きは強まり、ついに香瑠を包み込んだのだった。


<続く……>

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