渡辺side
あれから1年が過ぎた。
俺は、目黒に告白した直後、福岡に引っ越した。
別に告白がきっかけではなかった。
新しく仕事を始めることにした友人に、一緒に仕事をしないかと誘われ、転職することがあの時にはすでに決まっていた。
まあ、それもあって目黒に話してしまったのだが…
新しい生活は思っていたよりも快適だった。
仕事も軌道に乗り、やりがいも出てきた。
ある日、仕事が一区切りついた事もあり、社員みんなで食事に出かけた。
とはいえ、社員は5人だけなのだが
居酒屋で飲んでいると、後ろから声がした。
俺は幻聴か何かなのかと思った。
いるはずのない大好きな声。
するともう一度声がした。
俺は驚いて振り向いた。
すると目の前に目黒がいた。
すると、俺を転職に誘った友人が言った。
「彼、幼馴染なんだろ」
「俺が呼んだ。話したいって言ってて。お前、転職の話もしないで、こっちに来たんだって」
「いやあ、なんかさ~」
すると目黒が言った。
「そうそう。だってさ、2か月ぐらい? 翔太に会わせて欲しいって連絡してくるんだもんなぁ。まあ、少し二人で話したら。俺ら別の店行くよ」
「いいよ。なあ、翔太。ちゃんと話して来いよ」
「…」
目黒は俺の上着と鞄を手にすると、店を出て行った。
俺は慌てて後を追いかけた。
俺の前を歩く目黒の腕を捕まえる。
目黒の話はこうだ。
俺を探して、元の会社の後輩にも協力してもらったが居場所は分からなかった。
だが、4か月前に偶然、ある動画を見つけたと彼から連絡があった。
それは結婚式で歌った男性を撮った映像で、歌うまとしてアップされたものだった。
その映像を撮った人とDMでやり取りをして2か月前にやっと俺のいる会社を見つけたと。
その後、友人を説得して、やっと友人の協力を得て、ここに来たらしい。
俺がいなくなれば、目黒はきっとあいつの傍で彼女を支える。
彼女も最初はそんな気がなくても、こいつが本気になれば好きにならないはずはない。
二人が恋人になったのなら…
俺はそう言って笑った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!