第40話

友の記憶 4
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2023/05/15 09:00

部屋を出た後、あたりを見渡す。



少し先の角を曲がった阿部ちゃんを見つけた。

佐久間大介
阿部ちゃん!

何でだろう。

自覚したせいか、涙が止まらない。



こんな事、口にしたら、友達じゃいられなくなるのに

もう、我慢できないんだ。



佐久間大介
阿部ちゃん!

すると角を曲がってすぐに阿部ちゃんは足を止めてこっちを見ていた。
阿部亮平
佐久間? 
どうしたの?

俺に駆け寄ると、涙を拭いてくれる。


その手が冷たくて、冷え性の阿部ちゃんの手を握った。

この手が好きだ。

阿部亮平
佐久間?

俺の心配をして覗き込むその顔が好きだ。

優しく俺の名前を呼ぶその声が好きだ。



もう、壊れちゃう。

なのに止められないよ。

佐久間大介
阿部ちゃん… 
俺… 俺ね

そう言って泣いた。



でも、最後の一言。

好きの言葉が言えない。



言ったら俺たちは友達でいられなくなる?

阿部ちゃんは優しいから、それでも友達だよって言ってくれるかも知れない。



でも、怖いよ。

俺の大事な友達を、自分でなくすのは怖いよ




何も言えなくなった俺を阿部ちゃんはそっと抱きしめた。

阿部亮平
佐久間、大丈夫? 
もうすぐ本番だけど
佐久間大介
うん… 
大丈夫
阿部亮平
佐久間。今日、一緒に帰ろうか?
佐久間大介
えっ!
阿部亮平
久しぶりに、ゆっくり二人だけで話したいな
佐久間大介
うん。俺も
阿部亮平
じゃあ、仕事が終わったら… 
ほら、涙拭いて。
笑える?
佐久間大介
うん。大丈夫

俺は阿部ちゃんに安心してほしくて、笑ってみせた。


すると阿部ちゃんは優しく頭を撫でて言った。

阿部亮平
偉いね

俺は思いっきり笑ってみせた。



本当は泣きそうだ。

今日で俺の最高の友達は、遠くなってしまうかも知れない。



でも、思うんだ。

出会えてよかった。


そして、これからも一緒だ。

共に同じ道を行く仲間として、これからも一緒だ。




こんな優しい笑顔で俺の心配をしてくれる人を俺は好きになったんだ。

この笑顔を近くで見てきたんだ。

好きにならないなんて無理だ。



そう思ったら、少し自分の背中を押せた気がした。
佐久間大介
阿部ちゃん。帰りに話したいことがある
阿部亮平
分かった

その後、俺たちはメンバーとして、楽屋に戻り、本番を無事に終えた。


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