部屋を出た後、あたりを見渡す。
少し先の角を曲がった阿部ちゃんを見つけた。
何でだろう。
自覚したせいか、涙が止まらない。
こんな事、口にしたら、友達じゃいられなくなるのに
もう、我慢できないんだ。
すると角を曲がってすぐに阿部ちゃんは足を止めてこっちを見ていた。
俺に駆け寄ると、涙を拭いてくれる。
その手が冷たくて、冷え性の阿部ちゃんの手を握った。
この手が好きだ。
俺の心配をして覗き込むその顔が好きだ。
優しく俺の名前を呼ぶその声が好きだ。
もう、壊れちゃう。
なのに止められないよ。
そう言って泣いた。
でも、最後の一言。
好きの言葉が言えない。
言ったら俺たちは友達でいられなくなる?
阿部ちゃんは優しいから、それでも友達だよって言ってくれるかも知れない。
でも、怖いよ。
俺の大事な友達を、自分でなくすのは怖いよ
何も言えなくなった俺を阿部ちゃんはそっと抱きしめた。
俺は阿部ちゃんに安心してほしくて、笑ってみせた。
すると阿部ちゃんは優しく頭を撫でて言った。
俺は思いっきり笑ってみせた。
本当は泣きそうだ。
今日で俺の最高の友達は、遠くなってしまうかも知れない。
でも、思うんだ。
出会えてよかった。
そして、これからも一緒だ。
共に同じ道を行く仲間として、これからも一緒だ。
こんな優しい笑顔で俺の心配をしてくれる人を俺は好きになったんだ。
この笑顔を近くで見てきたんだ。
好きにならないなんて無理だ。
そう思ったら、少し自分の背中を押せた気がした。
その後、俺たちはメンバーとして、楽屋に戻り、本番を無事に終えた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!