今いる場所は、映画館らしかった。
前方のスクリーンにあの有名な小さな名探偵が映っていて、テンションが上がった。
そう、私はこのシリーズが大好きなんだ。
小さな笑みが聞こえて左を見る。
どうやら、今回一緒なのは行人という名前の人のようだ。
……この人……絶対私より年上だよね。私が昔敬語使ってたっぽい発言をこの人してたし、間違いなさそう。
でも20はいってない……気がする。雰囲気はそのくらいだけど。じゃあ、先輩?とか?
呼び方が合っていてホッとしたのもつかの間、いきなり口説かれて頬が熱を帯びる。
反応に困って下を向けば、椅子の肘置きに置いていた手を不意に握られた。
驚いている間に恋人繋ぎの完成。……じゃないよ!?
手を繋いでいない左手で行人先輩が無言を促してくる。
誰のせいで喋ったと……!
しかし、まだ映画は終わっていないので、文句も我慢して飲み込む。手は依然として繋がれたままだ。
その後の映画の内容は全く憶えていない。
◇◆◇◆
ドキドキしすぎて楽しむ余裕なかったけど……。
はは、と乾いた笑いを零す。そして、行人先輩を横目で盗み見た。
サラサラの綺麗な黒髪。黒縁のメガネがとても似合っていて、顔立ちは間違いなく整っている。
落ち着いて見てみると、相当かっこいい人だな。なんか、雑誌の表紙とか飾ってそう。
不思議な感覚だった。
話していたら勝手にいろんなエピソードがぽんぽん出てくる。記憶を取り戻している証拠だろうか。
新しい扉の錠前が落ちた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。