夏樹は、死んだ。
世界消滅前日だということもあって、葬式は行われなかった。
ただ、死化粧を施された夏樹が横になり眠っているハコが夏樹の部屋にあるだけだ。
夏樹の死を悲しむ人は、いなかった。
それもそうだ。夏樹に家族なんていないのだから。
それに、高校の夏樹の友達にも大学の夏樹の友達にも教えられていない。
だから、夏樹の部屋には僕と夏樹だけがひっそりと居座っていた。
大切な、大好きな、誰よりも愛していた女の子が死んだというのに、僕は泣かなかった。
それだけ、僕は酷い人間ということなんだ。
ふと、夏樹の机に目をやると、茶色いモダンな箱が置いてあった。
その箱には、こう書かれていた。
『 西風柚希 様 』
僕は、箱をゆっくりと開ける。
すると、中には無数の手紙が入っていた。
その中の一つ、《 1 》と書いてある手紙を開けて読んでみることにした。
『柚希へ』
5月26日。晴れ。
今日は、3年A組 西風柚希‥‥つまり、君と出会ったんだ。
君はとても無愛想で、けれど人の気持ちをよく分かる人だよ。
だから、私は頼むことにしたよ。
「通訳になってくれ」ってね。
あ、それでね、この手紙のことなんだけど‥‥
これから365日毎日こういう手紙を書こうと思うの!
それで、世界消滅する直前に渡す!
なんかロマンチックでしょ?笑
最後まで読まないと、一生呪うからね!!笑
僕は知らぬ間に、《 2 》と書いてある手紙を手に取っていた。
これはきっと、《 364 》まであるんだろうな。
本来なら、《 365 》になるハズだったのに‥‥。
そして僕は、夏樹が遺した364日分の最期の手紙を読み始めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。