3月14日。くもり。
ホワイトデーだ。
昼休みに廊下を歩いていたら、夏樹を見付けた。
僕は他の女子生徒と仲良く話す夏樹を初めて見たかもしれない。
そんな、楽しそうな会話を乱すわけにもいかないので、僕は夏樹たちの横を無言で通った。
...だけど、夏樹に捕まった。
僕がそう答えると、夏樹と女子生徒は嬉しそうに笑った。
騙された。夏樹に。
「隙」を読ませて「好き」って言わせようと...
僕が黙ると、夏樹は慌てた。
僕はにやりと笑う。
夏樹は僕の肩を揺らした。
夏樹は目を閉じた。
僕はその隙に、持っていた紙袋から和菓子を取り出した。
そして、夏樹の口に放り込む。
夏樹は分かりやすくきらきらした目をして、飛び跳ねた。
僕は夏樹に紙袋を渡した。
すると、夏樹は紙袋から和菓子の箱を取り出した。
即答ですか...
僕は、女子生徒の口に和菓子を放り込んだ。
そこかよ...
そしてその日は、僕の周りに人が沢山来た。
そいつらは皆、
『和菓子食いてぇ。』
『あーんってしてもらいたい。』
と言ってきた。
夏樹、僕の和菓子のことを広めたな...
まあ、いっか。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!