5月25日。快晴。
世界中の人間達は、いつもよりざわめいていた。
────────明日、世界が終わる日。
そう。あと一日経てば、この世界は彗星と共に消滅する。
そんな今日、僕は夏樹と一緒に大学へ行く約束をした。
すると、道の先の信号の前で夏樹が手を振っていた。
僕は、小走りで夏樹の所へ向かう。
けど────────────
夏樹は、赤信号を走り始めた。
キキーッ!
そして、鈍い音と共に夏樹の体が車に当たって跳ね返る。
近くには、小さい子供がいた。
子供を、守ったんだ。
引かれそうな所を見て、飛び出したんだ。
倒れた夏樹の隣で、子供が大きな声で泣いている。
僕は全速力で走りだす。
そして、夏樹の体を抱き起こす。
すると、夏樹は口を動かした。
────────え?
夏樹は、力無く笑った。
そして、夏樹は僕の頭を自分に引き寄せて顔を近付けた。
────────チュッ
‥‥これは、世に言う《キス》だ。
夏樹は力無く、でも優しく、とても嬉しそうに笑った。
そして、静かに目を閉じた。
名前を読んでも、返事がない。
分かってる。分かってるハズなんだ。
夏樹の呼吸は既に止まっていて、僕の手には夏樹の血がべっとり付いていて、もうこれで分からない人はいない。
遠くから、サイレンの音が聞こえる。
でもそんなの、どうでも良かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。