第10話

118
2019/04/12 15:18



結局、五条さんは熱中症だった。

私たちの心配をよそに、医務室ですやすや寝て、スポーツドリンクをぐびぐび飲んで、数時間後には元気に普段の顔色(十分白いのだけれど)に戻った。


でもあれっきり、五条さんはさっぱり室内スポーツをやめてしまった。
蜜、びっくりさせてごめんね、と。






熱中症には気を付けてくださいって、私、言いましたよね、五条さん。





今日も九月とは思えない陽気だ。
汗ばんだ額を拭う。

視界に、陽気なBGMを流し続ける自動販売機が飛び込んでくる。


あ、あのひとにペットボトルを買ってあげなくちゃ。
レモンティー、スプライト、アイスコーヒー、何がいいかな。



--自然にそう思ってしまって、何度目かの果てしない虚無に襲われた。





五条さんは大きな黒い車で追いやられて、もう私には綺麗な白の棺を見ることすらも許されなくなった。

細かいレースの模様が、五条さんの好みによく合っていた。



あの試合が去年の夏。

私があんなことを言い出す、ちょうど半年前--。




五条さん。

私、あなたと出会ってから一年半、春夏秋冬、どの季節も、


紛れなくあなたと一緒だった。


プリ小説オーディオドラマ