結局、五条さんは熱中症だった。
私たちの心配をよそに、医務室ですやすや寝て、スポーツドリンクをぐびぐび飲んで、数時間後には元気に普段の顔色(十分白いのだけれど)に戻った。
でもあれっきり、五条さんはさっぱり室内スポーツをやめてしまった。
蜜、びっくりさせてごめんね、と。
熱中症には気を付けてくださいって、私、言いましたよね、五条さん。
今日も九月とは思えない陽気だ。
汗ばんだ額を拭う。
視界に、陽気なBGMを流し続ける自動販売機が飛び込んでくる。
あ、あのひとにペットボトルを買ってあげなくちゃ。
レモンティー、スプライト、アイスコーヒー、何がいいかな。
--自然にそう思ってしまって、何度目かの果てしない虚無に襲われた。
五条さんは大きな黒い車で追いやられて、もう私には綺麗な白の棺を見ることすらも許されなくなった。
細かいレースの模様が、五条さんの好みによく合っていた。
あの試合が去年の夏。
私があんなことを言い出す、ちょうど半年前--。
五条さん。
私、あなたと出会ってから一年半、春夏秋冬、どの季節も、
紛れなくあなたと一緒だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。