「……もしかして、あなたが蜜さん?」
わんわん泣いていた私の肩を、誰かがそっと叩いた。
穏和そうな喪服姿の女の人だった。慌てて袖で顔を拭う。
「……はい、蜜です」
ようやく答えた声は、ひどい鼻声だった。
「ああ、よかった。ようやく会えたわ」
女の人は穏やかに私の手を引いて起こす。
「五条千春です。真白の、母です」
それを聞いたら、また涙があふれて止まらなかった。
--真白さん。そうだ、真白さん。
ずっと五条さんと呼ぶように言われていたから、誰だか分からなかった。
こんな後輩でごめんなさい、五条さん。
「あらあら、まあ、ごめんなさいね……。そう泣かないで」
大きくしゃくり上げる私を、千春さんはほんとうのお母さんのように優しくなだめてくれた。
ようやく落ち着いた頃、千春さんはゆっくりと話し始める。
「真白から、あなたの話をよく聞いていました。可愛い後輩が来たんだ、って。
あなたは紛れもなく、真白のいちばんのお気に入りでしたよ」
そんな。五条さんには、あんなにたくさんセンスのいい後輩がいるのに。
「心配症で、真面目で、でも朗らかな良い子で、ってね……
蜜さん、ありがとう、真白を好きでいてくれて」
驚いて顔を上げた。どうして、それを。
「……ご存じだったんですか」
「ごめんなさいね、あの子、秘密が守れないの」
千春さんはちょっと笑って続ける。
「真白はね、ほんとうにあなたと結婚したいと思っていたんですよ。
何度も何度も、お互い好き合えたらどんなに幸せだろうって聞かされました」
……ああ、そんな。
今聞かされたって、遅すぎるのに。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。