あれは、五条さんがバレーボールの試合の助っ人をしていた時のこと。
五条さんはスポーツが好きだった。
その日も、出会ったばかりのチームメンバーをよく通る声で呼び、的確なトスを飛ばし、白いボールを天井に届くのではと思うほど投げ上げる。
際どいボールを細い脚で追いかけ、かと思えば助走無しで跳ねて攻撃をブロック、そして苛烈なアタックを続けざまに放つ。
「五条さん、すごい!」
得点の合間にそう叫べば、こちらを振り向いてにやっとピースをしてくれるのが、また嬉しくて。
チームのエースさえまるで手を出せない、まさに八面六臂の大活躍だった。
はじめは余所者に懐疑的だった観客たちも、徐々に五条さんの活躍に沸き立ち、即興のコールまで巻き起こる始末で。
自分が褒められている訳でもないのに、誇らしかった。馬鹿な私は上機嫌で手拍子なんかしていた。
ハーフタイムの笛が鳴る。序盤から好調に得点を取り続けた自陣は、強力な助っ人と親しげにハイタッチをして笑い合う。
(あれ……?)
何かがおかしい、と気付いたのはその時だった。
五条さんのただでさえ白い顔が、病的な白、というか、青白い……?
「おーい、五条さぁん!」
咄嗟にタンブラーを取り出し、コートの五条さんに向けて大きく振ってみせる。
視線を彷徨わせながらも私に気付いてくれた五条さんは、フラフラと私の方に歩いてきた。
「あ……はは、蜜、」
やっぱりおかしい。あのひと、頬が真っ赤だ。
--熱中症。
その言葉が頭をよぎった。
「……五条さん?」
両手を広げた五条さんが、よろよろと私に抱き付いて
--違う。倒れ込んできた。
慌てて額に手をやる。
……熱、ある。
ぞっとしたのは、耳元に熱い息が吹きかけられたからだけじゃないはずだ。
「……蜜、あたし、……あ」
何か言い掛けて、そのまま五条さんはずるりと崩れ落ちた。
「五条さん……?! ねえ、五条さん! 五条さん‼」
祝勝モードの体育館がざわめき始めるのに、そう時間はかからなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。