第9話

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2019/04/12 15:18



あれは、五条さんがバレーボールの試合の助っ人をしていた時のこと。



五条さんはスポーツが好きだった。


その日も、出会ったばかりのチームメンバーをよく通る声で呼び、的確なトスを飛ばし、白いボールを天井に届くのではと思うほど投げ上げる。

際どいボールを細い脚で追いかけ、かと思えば助走無しで跳ねて攻撃をブロック、そして苛烈なアタックを続けざまに放つ。



「五条さん、すごい!」

得点の合間にそう叫べば、こちらを振り向いてにやっとピースをしてくれるのが、また嬉しくて。



チームのエースさえまるで手を出せない、まさに八面六臂の大活躍だった。

はじめは余所者に懐疑的だった観客たちも、徐々に五条さんの活躍に沸き立ち、即興のコールまで巻き起こる始末で。


自分が褒められている訳でもないのに、誇らしかった。馬鹿な私は上機嫌で手拍子なんかしていた。






ハーフタイムの笛が鳴る。序盤から好調に得点を取り続けた自陣は、強力な助っ人と親しげにハイタッチをして笑い合う。

(あれ……?)

何かがおかしい、と気付いたのはその時だった。
五条さんのただでさえ白い顔が、病的な白、というか、青白い……?


「おーい、五条さぁん!」

咄嗟にタンブラーを取り出し、コートの五条さんに向けて大きく振ってみせる。

視線を彷徨わせながらも私に気付いてくれた五条さんは、フラフラと私の方に歩いてきた。


「あ……はは、蜜、」


やっぱりおかしい。あのひと、頬が真っ赤だ。


--熱中症。

その言葉が頭をよぎった。



「……五条さん?」

両手を広げた五条さんが、よろよろと私に抱き付いて


--違う。倒れ込んできた。



慌てて額に手をやる。
……熱、ある。

ぞっとしたのは、耳元に熱い息が吹きかけられたからだけじゃないはずだ。


「……蜜、あたし、……あ」


何か言い掛けて、そのまま五条さんはずるりと崩れ落ちた。

「五条さん……?! ねえ、五条さん! 五条さん‼」


祝勝モードの体育館がざわめき始めるのに、そう時間はかからなかった。


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