「本日は暑い中、わざわざありがとうございます。故人のご友人ですか?」
「……はい、……この度は、誠にご愁傷様です」
香典を渡す手ががたがたと異様に震える。
兄と名乗った愛想の良いその人は、怪訝そうに袱紗を受け取り、若干逃げ腰でパイプ椅子を譲ってくれた。
礼を言ってそれに座った、座ったつもりだったんだけど、上手く座れなくて無様に転んでしまう。
五条さんのお兄さん--ああ、彼も「五条さん」だ--は、ついに眉をひそめた。
「あの、お坊さんが来たらお呼びしますから、しばらく休んで」
「……いえ、結構です。お気遣いありがとうございます」
示された席に向かい、数珠を取り出す。
からからに渇いた心に、焚きしめられた香の匂いが流れ込んできた。
やめて、五条さんはこんな匂いは好きじゃない。
私は知ってる。
私だけが知っている。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!