「他に好きな人がいるんでしょ」
「もう別れよう」
俺は何度言われたことか。
初めて言われた時は、胸が張り裂けそうなくらい苦しい言葉だった。
それなのに最近は、この言葉に少しも傷つかなかった。
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俺の彼女...いやもう元カノと言うべきか。
が、部屋から出ていって数分が経った。
時刻は夜中の2時を少し過ぎた頃。暗がりの中でピースに火をつける。
最近俺は調子が悪い。
すぐに彼女は出来るが、その分すぐに別れてしまう。
たばこの心地良さに酔いしれて、少しこのモヤモヤが薄れてくる。
この時間に起きてるのは、あいつしかいねぇか。
やっぱり起きてた。
自然と顔がほころぶ。ぶっちゃけ、ねぎが電話に出なかったらどこかで酔いつぶれていたと思う。ノーダメージとはいえ、失恋はやはりショックだ。
ホテルを出て、また火をつける。
ねぎの家はたばこを吸わせてくれない。本人がそもそも喫煙してないから当たり前か。
今のうちに存分に吸っておこう。
この前無意識にねぎの家でたばこ吸おうとしたらめっちゃキレたっけ。
また顔がほころんでしまう。頼れる友達がいて本当に助かる。
そうこうしているうちに、ねぎの家の前に着いた。
自覚ない。と言い切りたい。
心当たりはあるけれど、認めたくない。
元カノも元カノでどうせ適当に言ってるのだろう。
あと、俺は絶対に浮気なんてしていない。
そう言ってねぎりょーは冷蔵庫へ向かう。
自分の視界から消えた時、少し不安に思う。
彼女といた時のように、そのまま急に居なくなったりしないだろうか。
まぁ俺が彼女に「他に女がいる」ように思わせたのが悪いのかもしれないけれど。
さすが酒豪。常に酒が切れない。
この前キャスで13缶も飲んだっけ。
相変わらずだ。
ねぎりょーが、ウイスキーと缶ビールを持ってソファに座る。
2人で静かに乾杯をし、ねぎりょーがハイボールを一気飲みする。
そう言ってねぎりょーが炭酸水を入れる。
今日ぐらい飲みくれてもいいだろう。
そばにはねぎりょーがいる。
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お酒は人の本性を露わにする。
言動も、行動も、そして感情さえも。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!