第72話

71話
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2022/09/10 14:15



『そ、そんな!申し訳ないよ!私のためになんて…』



私がそう言って頭をぶんぶんと振ると



春千夜「あ、おいッ お前頭痛いって言ってただろ!」



と、慌てた様子で私の頭をガシッと掴んで固定させるようにやった。



『ご、ごめんなさい』



春千夜「い、いや別に謝って欲しいわけじゃなくて…って、そうだ。お前あの家にいて思い出さねぇの?殴られたりしてたんだろ…」




春千夜くんに言われてハッとした。
今までは何とか耐えて過ごしていた家。





虚像に縋って、人に



" 早く帰らないと "


" ご飯はなにかな "



なんて言っている時に自己暗示してなんとか持ちこたえていたあの家と私の心。



今考えたらどうだろうか。



1番に来る感情が 恐怖 なのだから、きっとあの家にいたとしても堪らなくなって逃げるように出ていってしまうだろう。





『たしかに…あの家にはもう…』




私がそう言うと、きまりだなといって私の手をぎゅっと握った春千夜くん。




春千夜「大丈夫だ、俺はちゃんと離れねぇから」




『…うんッ』




私がそういって笑うと、春千夜くんも安心したように笑っていた。




また2日後に迎えに行くからと出ていった春千夜くんの背中を眺めていた。





小柄だと感じていたけれど、改めて見ると大きな背中で、また背も高く見えた。





近くにいても分からないことってあるんだなと感じた。



こうして私は彼との同居を決めてしまったわけだ。




きっと、りんに言ったら色々と春千夜の方に野次が飛ぶんだろうけど




なんだかまだ内緒にしていたくて。
まだ彼と2人だけの秘密に





私は携帯電話をみた。
かつて送った チグリジア への返信が届いていたのだ。






そこには、ぶっきらぼうな彼らしい




「今行くから待ってろ」の字が並んでいて、私はそこで少し泣いた。





彼は約束を守ってくれたのだ。
ただ強がって、虚像に縋って理想の家族ノカタチを演じていた私への約束を。





どこまでいっても私はやはり彼には頭が上がらないだろう。





『ありがとう』





誰もいない、私だけの病室に自分の声がこだました。





あと2日後、彼にあった時1番に笑顔を見せよう。
彼への感謝をこめて






そう思いながら目を閉じた。





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