そう、話す彼女はとてもつらそう…。
俺はただ彼女を抱きしめるしかできなかった。
彼女は、俺の首に腕を回して、声に出して泣いている。
俺より10も年上の自立した女性なのに。
涙をいっぱい流しながら、そう訴える彼女を見ていたら、可愛くて愛しくておかしくて笑えてきてしまった。
しまった…
こんな勢いで言いたくなかったのに。
ちゃんとプロポーズしたかったのに。
ほら、葵のヤツ固まってんじゃん。
そう言うと、ポロリと涙を流した。
この涙はいい涙だね。
そんな涙をこれからもいっぱい流してやりたいよ。
涙を流す彼女のまぶたにそっとキスをする。
そして、優しく唇にキスをする。
そのキスはだんだん激しくなっていき、彼女の吐息が漏れる。
チェ〜っと拗ねたように唇を尖らせる。
本当はね、俺がいつも一緒に入りたがるのは、会えない日が多い俺達は一緒にいられる時間も少ないでしょ?
だから、このさほど広くもないこの浴槽に二人で浸かっている時間を大事にしたいんだ。
だって、一番近くでゆっくりと葵と話ができるから。
でもこの事は、教えてやんない。
俺を泣かせた罰だから。
終わり。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!