第7話

第一章 デジャヴ⑴
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2021/04/02 13:21
2921年 1月

男は佇んでいた。
マンションのベランダで1人、佇んでいた。

片手には消えかけの煙草、もう片手には缶ビール。

厳つい風貌に鋭い目。
眉間に寄った皺には、何処か哀愁すら覚えた。


リビングにある付けっ放しのテレビからは、

      “未知のウイルス発見”
     “世界中でパンデミックか”
      “900年振りの大混乱”

と、連日報道されている、代わり映えのない話題ばかり。
その裏では、「世界大戦勃発か」と、有り得ない事まで囁かれていた。


しかし男にはその音など聞こえていない。

彼の脳内には昨夜見た夢のみ。
顔も知らない男と、一言、二言。
でも何処か、母の温もりのような暖かさを感じた。

そいつとどんな関係なのか。
そいつと何があったのか。
何故知らない奴が夢に出てくるのか。
そもそもあれは誰なのか。


疑問こそ数え切れないほどあったが、

「こんなの俺らしくないか、」

と、呟きを落とし、思考を放棄した。



冬は夕方になるともっと寒い。

乾いた空気の中、悴むかじかむ体の隣を、すぅ、と通った風。
それは部屋の中にあるスーツを揺らした。


「たまには外で呑む酒も悪くないな、」


そのスーツの胸にはネームプレート。
刻まれた文字は、





“岩本 照”

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