彼は、気付いていた。
手足の痺れ。
脱力感。
日に日に増していくような感覚は、決して幻想ではない。
そう、分かっていた。
けれど彼は、大して動揺せず。
“あぁ、やってしまったんだ”
そんな、納得と諦めが混ざっているような感情で。
ただ、迷惑はかけたくない。
その一心で仕事をしようとした。
しかしその目論見は、すぐ壊される。
1番の理解者とも言える同志には、彼の状態が分かっていた。
その者が出てきた時点で、彼が丸め込まれることはもう分かり切っていて。
反論するだけ無駄。
反論するだけ疲れる。
そう悟った彼は、納得して“あげる”ことにした。
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そうして彼は、
白く無機質で、鼻の奥をつんと突かれるような。
誰しもが嫌うであろう其処に、足を踏み入れたのだった。
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2週間後
無事つまらない3日間を過ごし、普通の日常を取り戻した彼は、またその場所にいた。
2週間前とは違い、今日は浅葱色の長椅子に座っている。
“深澤様、深澤辰哉様、”
名を呼ばれた彼は立ち上がり、彼の心の様な、重たい引き戸を開いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。