2024年12月某日
やっとスタートをあの切れた日から、5年が経とうとしていた。
あることをするため、白く無機質な部屋に横たわっている、1人の男。
彼は一昨日、ここへ来た。
先程目当てのことが終わり、ため息を吐く。
深澤「どうせ明日には帰れるからいいけどさ、」
彼しかいないその白い箱で、知らぬ間に呟きを落としていた。
彼はどこか、怯えているように見える。
見えない敵から追われている様な、
未来の壮大な何かと戦う様な。
絶対に明日が来るかは分からない。
そう悟るような、物憂げな表情をしていた。
眉間の浅い皺が、よりそれを際立たせる。
そうして彼は、近くにあった携帯を手に取り、写真フォルダを開いた。
最新の写真はガッツポーズをする8人の男たち。
昨日のものだった。
遡っていけば、
20年来の特別な人とのツーショット、
茜色に染まる空、
夕方の浜辺に立つ8人の後ろ姿、
やっといっしょに呑める、と成長を感じた君、
大人なのにね、ってはしゃいだジェットコースター、
こんなところにも思い出の欠片があるなんて。
そう彼は、はっ、とした。
気付けば彼の目には光るものがあった。
気付けば彼の携帯の画面は濡れていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!