マネージャー「DAiSさん、新しい映画、決まりましたよ!」
佐久間「本当ですか、ありがとうございます!」
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高層ビルが立ち並ぶ街並み。
本当なら人でごった返す道も、今日は疎らで。
そんな中、ゆっくりと歩みを進める、影。
夕方の橙に、それは染まっていた。
落日の刻、儚い光に呑まれそうな表情は、比喩ではなく。
まさに何処かへ消えてしまいそうなそれだった。
その胸中には、ある出来事ばかり。
つい、さっきのこと。
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スタッフ「これにて岩崎ひかる役のDAiSさん、クランクアップです!」
佐久間「ありがとうございました!!」
スタッフ「一言、お願いします、」
佐久間「えぇ、本当に楽しい収録でした。この物語はノンフィクションアニメという事で、難しいところもありましたが、他の共演者の皆さん、そして監督をはじめ、スタッフの皆さんのお陰で、今日という日を迎えられたと思います。この経験は自分の一生の宝物です、本当にありがとうございました!」
スタッフ「ありがとうございます!お疲れ様でした!」
彼は拍手の雨が降るところを、マスク越しの笑顔で通りすぎた。
その心境は、
やり遂げたことの嬉しさ。
やり遂げてしまったことの寂しさ。
やり遂げられたことの驚き。
そして、ほんのちょっとの疑問があった。
それもそのはず、
彼は初めてその台本を見た時、泣いていた。
彼自身でさえも、何故なのか分からないが、泣いていた。
彼の涙は、それはそれは純粋で。
ただ単に頬を濡らしただけではないように思えた。
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佐久間「、終わっちゃった、な」
終わっちゃったから。
ずっと先延ばしにしてた問題に、向き合わなきゃ。
段々と弱まっていく陽に照らされながら、彼は思量する。
まず、何で泣いたのか。
仕事を貰って嬉しかったから?
確かに嬉しかったけど。
泣くほど仕事がない訳ではない。
内容を知っていたから?
いや、台本はまだ読んでなかった。
それ以前に、見たことも、聞いたこともない話だった。
でも、
なんとなく、次の展開を予想できたような。
なんとなく、男の友情の話で、
なんとなく、悲しい結末になる。
みたいな。
これって、
佐久間「デジャヴ?」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!