第5話

序章 ある夏の日に⑵
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2021/04/02 05:31
華々しく舞う人の裏には、相当な苦労がある。

そう言ったのは誰だったか。
まさしく自分に当てはまると、深澤辰哉は、ふ、と鼻で笑った。

彼は今、何を見ているのだろう。
苦しかった過去か。
悔しかった過去か。
その中にもあった嬉しかった過去か。
それとも満開の花のような8人の笑顔か。


物憂げな雰囲気を醸し出すその表情からは、何も読み取れない。

ただ、今は十分満足しているということ。

それだけは、彼という存在自体が語っているように見えた。


ぬるっとした夏の風が、彼の頬を撫でた。

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