深澤「なずなぁー?」
なずな「はぁーい!なぁに?ぱぱ!」
深澤「ここにね、なずなのお花があるよ、」
なずな「なずなのおはなぁ?」
深澤「うん!そうだよ、薺のお花。薺の花言葉、知ってる?」
なずな「はなことばぁ?なぁに、それ?」
深澤「えっとね、お花に込められた意味、かな。お花の種類によって違うんだよ」
なずな「そぉなんだ!じゃあさ、なずなのはなことばはなぁに?」
深澤「それはね、____。」
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俺には、1人の娘がいる。
“なずな”っていう6歳の子で。
“しおん”っていう妻と、一生懸命育てようとしてた。
でも、神様は残酷で。
なずなが4歳の時。つまり2年前か。
妻のしおんは、心臓の何かで、突然死。
最初こそ、立ち直れずにずっと泣き叫んでたけど、
まだ4歳のなずなが俺に、
「ないちゃだめ。なずなはぱぱのわらってるかおがすきだよ、」
って言うんだもん。
大人の、父親の俺が泣くのは違うよね、って思って。
その後、しおんの遺品整理してたら、手紙が出てきて。
一枚は俺に、もう一枚はなずなに向けてのそれだった。
その手紙を読んだら、まあ号泣して。
ただ、しおんが生きていた証が残っていて、本当に嬉しかった。
その内容は、まるでこうなることが分かっていたような。
そんな言い回しで。
なずなへの手紙は、なずなが二十歳になるまでは渡さないで欲しい、とのこと。
そして、
【紫苑の花言葉、調べてみて。私から辰哉への気持ちだよ。あと、薺の花言葉。それが、なずなに関しての辰哉への思いだから。】
とあって。
すぐに携帯で“紫苑”の花言葉を調べた。
[君を忘れない]
大好きだったしおんの顔が、走馬灯のように巡ってきて。
俺まで死んでしまいそうになるくらい、涙を流した。
でもそんな時、しおんの優しい、優しい声が聞こえて。
『ほら、泣いちゃだめでしょ?私も辰哉の笑ってる顔が好きだなぁ 笑』
深澤「、っ、ぁあ、そうだなぁ、そうだよなぁ、笑わなきゃだよなぁ、なずなのパパだもんなぁ、」
『そうそう、ほら笑って笑って!薺の花言葉も、調べてみてよ、』
そう言われるがまま俺は、携帯のキーボードをタップしていた。
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深澤「それはね、[貴方に私の全てを捧げます]、だよ。」
そういえば2年前の今日、優しい、優しい、夏の光のような誰かの、命の燈が消えたんだっけ。
2921年 5月
紫苑の追憶に耽る、春夏の頃。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。