月初に事務所に行く。
スケジュール確認の為だ。
給与明細と、月内スケジュールは、経理課に置いてあるパソコンで自分で出すシステム。
ただしスケジュールは刻一刻と変わるから、月初で把握できるものが全てじゃあない。
私のスケジュールはほぼ変わらない。
欲しいのは菜花のスケジュールだ。
月初に入ってる予定なんてタカが知れてるけど、それでも土日のイベントなんかはわかってるものも多い。
私は心の中で鼻歌を歌いながら、こっそり入手した菜花の事務所登録IDで、菜花のページを開く。
もう何ヶ月も続けてる楽しい菜花チェック。
「え?」
平日に見たことのない文字がみっつ並んでる。
『松岡先生写真集』
何これ?
聞いてない。
嫌な予感に、ざわざわした。
菜花について知らない事がある、それだけで不安になった。
松岡って、マッさんのことよね?
知り合いの編集にさりげなく聞いてみる。
「ねー、今月のカメラ誰かなぁ?
私マッさんがいいんだけどぉ」
「あー、碧ちゃん、ごめんねえ、今月はタケさんなんだ。
マッさんは忙しいらしくてさ」
「えー、なんで忙しいの?
マッさん、他にどこの本撮ってんの?」
「雑誌はうちだけだと思ったな。
カレンダーやピンナップには早いしね」
「あれじゃん?
最近の仕事集めた写真集GPから出すって言ってたじゃん」
他の編集くんが口出してくれた。
なるほど、マッさんの仕事集か。
菜花の面倒見てる紅さんにも電話してみる。
「お久しぶりでーす、碧です。
最近、お会いしないからどうしてるかと思って……紫さんや菜花も誘ってたまにはゴハンどうですか?」
『碧ちゃん、珍しい(笑)
お誘い嬉しいけど、今、紫、イタリアのショーの準備で忙しいから無理かなぁ』
そんなこと、もちろん知ってる。
「そうなんですね、ステキですねぇ。
でもじゃあ紅さんだけでも?」
『それが……あたしもスタイリストとして付いてく事になってて……ごめんね?』
うわ、いつの間にそんな事に?
「そうだったんですね、知りませんでした。
じゃあ仕方ないから、菜花とふたりで……」
『なのちゃんも、写真集で忙しいんでしょ?
この前、どこまで脱ぐべきかって相談されたから、ショーじゃ、みんな全裸で次々着替えてるよ、って言ったんだけど』
内心ぎゃーって叫ぶ。
「そうなんですか?」
『あたしたちモデルは、服を吊るすハンガーだからね。
下手に下着付けてるとみっともない線が出ちゃうし』
あとの話はもう頭に入らない。
適当に相槌打って、またお話し聞かせてくださいねって言ってにこやかに電話を切る。
マッさんったら!
ふつふつと怒りがこみあげた。
菜花はグラビアじゃない、って言ったのに!
脱がされてたらどうしよう?
マッさんからもらった菜花の写真を眺める。
実はすぐに待ち受けにしてたんだ。
強いまなざしがセクシーで、うっすら開いた唇から覗くピンクの舌を、今すぐ舐めたくなっちゃう。
マッさん、確かに腕はいいよ、認めるよ。
だけど、だけどさ!
なんで、ちょっと会わないでいると、その間に、話がどんどん進んじゃうの?
私は菜花にLINEを送る。
『いつなら会える?』
泣いてるスタンプも5個付ける。
『ごめん、今週は無理。
来週は、碧が撮影だよね?』
きーーーっ。
ヒステリーが起きそう。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。