第15話

恋人以上
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2021/08/04 10:44





恋人より深い関係って何だろう?


私は自分で言った事を考えてしまう。




私は自分が快楽に弱い事を知ってる。
楽しいことと、気持ちいいこと、美味しいものが大好きだ。
でも、菜花は、そうでもない。
ストイックって言うほどじゃないけど、私のように快楽が1番優先されるっていうわけでもない。
夜を重ねても、そこに溺れる感じがしないのが、何よりの証拠だ。


菜花から求めてくれて、私に触ってくれた時は、そのあまりの気持ち良さに引き返せなくなった。
好きなんだから気持ちいいのは当然だけど、私はもう一生この人と触れ合って生きていきたいって思ってしまった。
だから、最低でも1週間に1回は会いたい、って言った。
菜花は笑って、頑張るって言う。
頑張ることなの?って返したら、


「だってアタシたち、仕事もあるし」


わかってるわよ!
でもさ、ってむくれてしまった。
なのに、優しくキスしてくるから、怒り続けられない。
結局、菜花を大好きな私は、菜花に勝てないんだ。


だいたい、こっちから仕掛けても、気付くといつの間にか菜花に愛撫されて、私の方がイかされてしまう。
前みたいにヤられっ放しではいてくれない。
なかなか前みたいに、触り続けさせてはくれなくなった。

私たちの関係は少しずつ変化していく。



雑誌VAN VAN の撮影を2回過ぎた頃。
編集部で、マッさんの写真集が話題になった。
すっかり出来上がって店頭に並んだそれは、白い薄衣をまとって髪を逆立てた菜花の美しいアップが表紙で、『松岡昌造全仕事2015〜』ってタイトルだった。
菜花の顔は、女性特有の甘さがまるでなくて、男にも見え、強烈。
流れる視線が、無機質にカメラを見てるから、まるで人形やロボットのようだった。


中を見せてもらう。
女優、男優、けっこうアスリートも撮ってる。
ダンサー、ミュージシャン、知ってるCMもあった。
海外の人もたくさん。

最後の2ページ、表紙の菜花の写真があった。
体の周りにたなびく薄衣が靄(もや)のようで、うっすらと身体の線が窺える。
赤い乳首も、下腹の黒い茂みも、ほんのうっすらわかる。
なのに、エロさより、普通に笑った顔や、何かに驚いた顔も載ってて、すごく普通のかわいい女の子だって知らせてる。
そのくせ、次の瞬間、揺れる視線を遠くに投げて、表情を無くした菜花は、人ならぬ妖しい美しさを湛えてた。
そんな表情を切り取れるマッさんの腕の良さが良くわかる。

撮影風景もある。
大きなクレーンに吊られたスタッフが、菜花の髪を持ち上げて落としてるところ。
鳥が菜花の目の前をかすめていくところ。
写真家って、紙の上の彫刻家みたい。
こんなに多彩なものを顕して見せるなんて。


ステキな写真集を閉じた私の手は震えていた。
心の中に湧き上がるのは、嫉妬。
正体のない敗北感。


どうしよう。
菜花が見つかってしまう。
私だけのものじゃなくなってしまう。

私は?

いつか、近い将来、ファッション誌の専属モデルを卒業する時が来る。
今は華やかな世界でちやほやされているけど、必ず歳は取るし、永遠に続けられるものでもない。
とても不安定で、先が見えない仕事。
今はいい。
でもこの先は?
私はどうしていくの?


ずっと変わらずモデルを続けていけるものかわからない。
私の、可愛い女の子の時代は、あとどのくらい
なんだろう?




携帯が震える。
菜花からのLINEだった。


『今日はマッさんとゴハン行く事になった。
月曜なら、お休みだよー?』


1週間に1回は会いたいって言った私の希望をかなえようと頑張ってくれてるLINE。
読んでしまったのに、すぐ返事ができない。
怒ってるって思われたくないから、


『月曜ちょっとまだ予定不明。
分かり次第LINE入れるね』


って返信する。

すごく会いたいけど、会いたくない。

今は会えない。

マッさん、なんで私じゃ駄目だったの?
菜花を思って疼く身体を持て余しながら、それでも妬ましさで素直になれなかった。






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