第14話

好きの理由
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2021/07/29 23:16





仕事が一段落したから、碧に連絡しようとスマホを触る。

指が止まる。


アタシの大好きな友達。
でも今はもう恋人?
それが良くわからない。


確かに、碧と会いたかった。
一緒にごはんを食べて、ショッピングに行って。
たまにはカラオケ。
映画もいいな。
マッさんとの仕事の話もしたい。


体も触られたい。


だけど。

それだけで終わるのは嫌だった。
だいたい、アタシだけが触られまくって終わるのはなんか変。
考えてみたら、アタシ、何もしてないよ。
何かしたいかどうかもわからないまま。
話をすることもなく、アタシたちの関係性も良くわからないまま、どこかいびつになってしまってるように感じる関係。


アタシには、碧と話をする事が必要。
今のままだと居心地が悪い。


指が動いて、いつ会える?ってLINEを打つ。







1番近い昼間を設定した。
その日はふたりともオフで、次の日に仕事が無い。


碧は、相変わらず可愛いかった。
今日も小柄な体にシャツとハーフパンツ。
マニッシュというには甘くて、ボーイッシュって言うのがピッタリ。
でもすごく女の子らしい。

いいな、こんな風でいたかったな。


「久しぶり」


って、碧がすごく嬉しそうに笑うから、アタシも笑う。
会えば懐かしく、気取る事なく、リラックスして会える、大切な存在だなって、あらためて思う。


アタシたちは、特大のポークステーキ250gを食べた。
サラダもスープも、ライスも食べた。
食べるアタシをじっと見るから、ん?て視線でたずねる。


「(笑)そんなに食べんのに、菜花って、なんでそんなに痩せてんの?」


「碧も食べてるじゃん。
だいたい、食べないと動けないし、肌も荒れない?」


「そうだけど。
私が知ってるモデル仲間みんな、千切りキャベツで生きてるから」


「アタシは昼間はちゃんと食べるよー。
それに、言うほど痩せてなくない?」


「痩せてるよ」


碧が、黒目がちのおっきな目でアタシを裸にしたから、恥ずかしくなって黙る。
どうしよう、肌が、乳首が、ちりちりする。
急に食べてるものの味がわからなくなる。
落ち着きたくて水を飲む。





碧は、すぐ家に行きたかったみたいだけど、アタシはまず話がしたかったから、カラオケ屋に誘った。
防音だし、ドアや窓は外から見えるガラス張りだけど、一応個室。
頼んだ飲み物が運ばれてきて、口を付ける。
碧がじっと見つめてくるから、アタシも見つめ返す。


「2週間、何の仕事だったの?」


「あー、碧のとこでお会いしたカメラマンの松岡さんの写真集に使うやつ撮ってた。
あとは、いつものイベントの仕事と、製薬会社のキャンペーン」


「マッさんに脱がされた?」


「ううん、ちゃんと白い衣装着てたよ。
引きずるぐらい長くて、でもすごく軽くて、動くと空気みたいに舞い上がるやつ」


碧が明らかにほっとした。
その様子から緊張してたんだとわかる。


「え、どうしたの?」


「マッさん、菜花の身体に興味あるみたいだったから」


そんなことないんだけどな。
それは碧の誤解。


「そんなこと、全然無かった、よ?」


しゃべってる間に碧が抱きついてきた。


「菜花」


ぎゅうぎゅうと抱き締めてくるから、アタシも碧を抱き返す。


「離れたくない。
皮膚も肉も溶けて隙間なくくっつけたらいいのに」


その言いように驚いた。
前から思ってたけど、碧って賢いよね?


「……なんで?」


アタシの言葉に碧が顔を上げる。
視線を合わせてくるから、内心うっ、てなる。
可愛いなぁ。
容姿に惹かれるって、間違いなくあるよなぁ。

綺麗な目が濡れたように光って、アタシを欲しい気持ちを訴えてくる。


「好き、だから」


「アタシも好きだよ?
でも……」


マッさんを思い出す。
何でアタシなんかを、って問いを発するのは、アタシのどこがいいのか聞き出したいからだ。
口説かせたいんだ。
わかってる。
でもごめんなさい、アタシどうしても納得できないんです。


首を傾げてアタシを見つめる目が笑った。


「自分でもなんでかわかんないから、説明は無理。
好きとか欲しいって気持ちに理由つけられる?」


「……いつから?」


「わかんない。
どんどん膨れたから」


「アタシ、まだ追いつかない」


「知ってる。
きっと追いつく事ないよ」


アタシを抱きしめる腕が緩んだ。
見つめた視線が外れて、


「菜花が思ってるよりずっと、菜花が好きなの。
女の子どうしでこんなの、変なの、わかってる」


って言うから、ふーん、て思う。
碧は、アタシの気持ちを確かめてこない。
居心地の悪さはそこなのかな。
一方的に置き去りにされてる感じ?


アタシは、あらためて自分から碧を抱き直し、キスをした。
甘い飲み物の味と、飢えてた人が待ち望んでたものを与えられたように必死で絡んでくる舌。
あまりに激しいから、口から魂を吸い出されそう。

アタシは、碧の身体をまさぐった。
背中、頭、腕。
乳房。


いきなり、飛び退くように離れた。
顔を真っ赤にして、自分を守るように両腕を前に置いている碧。
なんだろ?
猫?


「アタシの気持ちを確かめてこないのはなんでなの?」


「なっ、菜花はっ。
優しいから拒否しないのは知ってる。
拒否されないぐらいには、私のこと好きなのも知ってる。
だから。
なし崩しに快感与えて、いっそ私から離れられないようになったらいいな、って……」


思わず吹き出した。


「そんなこと考えてたの?」


「だって離れたくないから」


「そんなことしなくても離れないし、そんなことしたって離れる時は離れるでしょ」


「そうだけど、でも」


アタシは碧の腕を取って抱き寄せる。
抵抗はなく、しがみつくように抱き締められた。


「菜花の全部が欲しい」


「もう全部あげたじゃん。
今度は碧が、碧の全部をアタシにちょうだい?」


碧の唇が迫ってきたから受け入れる。
優しくて甘いキスになった。


「私、菜花とは、恋人より深い関係になりたい」








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