第11話

写真集
87
2021/07/10 04:00





事務所から、次のお仕事入りましたって連絡が来た。



今回は何のイベント?って思ったら、カメラマンさんの個人写真集のモデルだって。

ほえ?

新しい種類のお仕事だなー。
楽しみだけどできるかなー。


「松岡昌造さん?」


あれ?
確かこの前、碧の撮影で名刺もらった人じゃない?

バックの中の名刺入れを確認する。

やっぱりそうだ!

あの撮影の碧も、すごく可愛いかったなぁ。




碧!



頭の中が、お仕事から綺麗で可愛い碧に一気に塗り替わる。

優しいけど強引で、いつの間にか距離が無くなっちゃったアタシの女友達。

恥ずかしいのに、絶対恥ずかしいはずなのに、私に触れる触れ方に、全然ためらいがないから、むしろ当たり前に触るから、どきどきしてる間にもう戻れないとこまで来ちゃってる。

今だってもう、思い出しただけで、身体の奥が疼いてくる。

この前は疲れてたせいもあって、イッた後そのまま寝ちゃって、目が覚めたらもう朝だったんだけど。
布団の中、アタシの裸の身体を抱くようにして胸のとこにあった碧の頭。

寝てる間もずっとしゃぶられてたのか、赤く腫れて熱を持ったみたいになった乳首が、その後しばらく、片時も碧を忘れさせてくれなかった。

帰る前に、シャワーを借りて、ベタベタの身体を洗ったけど、シャワーのお湯が当たるのさえ痛いんだもん。
そしたら、足の間が濡れてずっと乾かない。

困っちゃうよ。


「次いつ会える?」


「ゴハンくらいなら会えるけど、泊まりはムリー」


「そっか……」


って、目に見えるようにガッカリしてた。


「私は菜花と離れたくないのになぁ」


うん。

でもごめんね、碧。

アタシには、離れて独りになる時間が必要。
独りの時間があるから、会えた時が嬉しいんだよ。
ずっと一緒だったら、一緒にいるのが当たり前になって、感動が薄れていっちゃう気がする。
それともそれが、ふたりの目指す先なのかな。


こんなに快感を刻まれて、でもまだそこに溺れられないのは、女同士だからなんだろうか。
体を求めるような関係なんて他に誰も知らないから、わからない。
それともアタシが変なのかな。


碧、みどり、大好きだよ。
でもアタシたち、これからどうなっていくの?







事務所からもらった資料通り、松岡さんが指定したスタジオに行った。
原宿から下がったとこにあって、小さい個人スタジオみたいな所だった。
衣装の指定も何もないから、普通のかっこ。


「おはよございまーす」


「あ、来た来た」


「お世話になりまーす」


「今日は下撮りっていうか、カメラテストみたいな感じなんだ。
準備いらないから、まず撮らせてもらっていい?」


うなずいて、カバンを置いて、指定されたスクリーンの前に立つ。
助手さんふたりが、明度測ったりレフ板調整したりする。


すまして、笑って、怒って、好きな人のこと考えて。

ジシャジシャジシャジシャ……。

指示が出る間も鳴り止まないシャッター音とストロボ。
初めてだからわからないけど、すごい連写で撮るんだな、って思ってた。


1時間くらい撮られて、お疲れ様って声がかかる。
助手さんに隣室を案内された。
写真集に使う予定の写真がファイルされたものを渡されて、少し待つように言われる。
温かなお茶を出してくれたから、飲みながら写真を眺める。
全部人物。
知ってるのも知らないのもあった。


「お待たせ」


ガチャリとドアを鳴らして松岡さんが入ってくる。
手には数枚の紙。
今撮った写真?


広げられたのは、見たこともないアタシだった!


冷たくて恐ろしくて、どっかエロい。

アタシ?

え、これアタシ?


「約1000枚ぐらい撮って、使えるのようやくこの3枚だよ、効率悪いよね。
今デジタルだからいいけど、フィルムだったらちょー大変(笑)」


アタシは驚いて何も言えなかった。


「菜花ちゃん、こんな自分見てどう思う?」


「……びっくりしました」


「うん、そうだよね。
きみ、可愛く可愛く自分を作ってるけど、僕が思うに、きみの本質はディズニープリンセスじゃない。
人ならぬ美しさで男も女も狂わす、恐ろしいもの。
妖精の女王、だよね」


松岡さんの目が怖いように光る。


「僕ね、きみを写真集の表紙に使いたいって思ってるんだ」







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