事務所から、次のお仕事入りましたって連絡が来た。
今回は何のイベント?って思ったら、カメラマンさんの個人写真集のモデルだって。
ほえ?
新しい種類のお仕事だなー。
楽しみだけどできるかなー。
「松岡昌造さん?」
あれ?
確かこの前、碧の撮影で名刺もらった人じゃない?
バックの中の名刺入れを確認する。
やっぱりそうだ!
あの撮影の碧も、すごく可愛いかったなぁ。
碧!
頭の中が、お仕事から綺麗で可愛い碧に一気に塗り替わる。
優しいけど強引で、いつの間にか距離が無くなっちゃったアタシの女友達。
恥ずかしいのに、絶対恥ずかしいはずなのに、私に触れる触れ方に、全然ためらいがないから、むしろ当たり前に触るから、どきどきしてる間にもう戻れないとこまで来ちゃってる。
今だってもう、思い出しただけで、身体の奥が疼いてくる。
この前は疲れてたせいもあって、イッた後そのまま寝ちゃって、目が覚めたらもう朝だったんだけど。
布団の中、アタシの裸の身体を抱くようにして胸のとこにあった碧の頭。
寝てる間もずっとしゃぶられてたのか、赤く腫れて熱を持ったみたいになった乳首が、その後しばらく、片時も碧を忘れさせてくれなかった。
帰る前に、シャワーを借りて、ベタベタの身体を洗ったけど、シャワーのお湯が当たるのさえ痛いんだもん。
そしたら、足の間が濡れてずっと乾かない。
困っちゃうよ。
「次いつ会える?」
「ゴハンくらいなら会えるけど、泊まりはムリー」
「そっか……」
って、目に見えるようにガッカリしてた。
「私は菜花と離れたくないのになぁ」
うん。
でもごめんね、碧。
アタシには、離れて独りになる時間が必要。
独りの時間があるから、会えた時が嬉しいんだよ。
ずっと一緒だったら、一緒にいるのが当たり前になって、感動が薄れていっちゃう気がする。
それともそれが、ふたりの目指す先なのかな。
こんなに快感を刻まれて、でもまだそこに溺れられないのは、女同士だからなんだろうか。
体を求めるような関係なんて他に誰も知らないから、わからない。
それともアタシが変なのかな。
碧、みどり、大好きだよ。
でもアタシたち、これからどうなっていくの?
事務所からもらった資料通り、松岡さんが指定したスタジオに行った。
原宿から下がったとこにあって、小さい個人スタジオみたいな所だった。
衣装の指定も何もないから、普通のかっこ。
「おはよございまーす」
「あ、来た来た」
「お世話になりまーす」
「今日は下撮りっていうか、カメラテストみたいな感じなんだ。
準備いらないから、まず撮らせてもらっていい?」
うなずいて、カバンを置いて、指定されたスクリーンの前に立つ。
助手さんふたりが、明度測ったりレフ板調整したりする。
すまして、笑って、怒って、好きな人のこと考えて。
ジシャジシャジシャジシャ……。
指示が出る間も鳴り止まないシャッター音とストロボ。
初めてだからわからないけど、すごい連写で撮るんだな、って思ってた。
1時間くらい撮られて、お疲れ様って声がかかる。
助手さんに隣室を案内された。
写真集に使う予定の写真がファイルされたものを渡されて、少し待つように言われる。
温かなお茶を出してくれたから、飲みながら写真を眺める。
全部人物。
知ってるのも知らないのもあった。
「お待たせ」
ガチャリとドアを鳴らして松岡さんが入ってくる。
手には数枚の紙。
今撮った写真?
広げられたのは、見たこともないアタシだった!
冷たくて恐ろしくて、どっかエロい。
アタシ?
え、これアタシ?
「約1000枚ぐらい撮って、使えるのようやくこの3枚だよ、効率悪いよね。
今デジタルだからいいけど、フィルムだったらちょー大変(笑)」
アタシは驚いて何も言えなかった。
「菜花ちゃん、こんな自分見てどう思う?」
「……びっくりしました」
「うん、そうだよね。
きみ、可愛く可愛く自分を作ってるけど、僕が思うに、きみの本質はディズニープリンセスじゃない。
人ならぬ美しさで男も女も狂わす、恐ろしいもの。
妖精の女王、だよね」
松岡さんの目が怖いように光る。
「僕ね、きみを写真集の表紙に使いたいって思ってるんだ」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!