会社を出た。アトルークまでは電車で1駅。都会にある会社と都会にある店で良かったと思う。人気だと言っていた店だが外には行列は見当たらなかった。
外壁は白に塗られて、たまに煉瓦の凹凸がある。窓はなく、扉は少しだけ古そうに見えた。
福田泰三。私の叔父でもあり、学生時代によく通っていた喫茶店で働いていた。その頃から関西弁と明るい性格で店は賑わっていた。
しかし、そこから5年ほど経った後にその店は閉店してしまったのだ。そこから泰三はこの店を立ち上げ、今に至る。
泰三は笑ってコーヒーと店内1番人気のスイーツを出した。カメラにそれを収めてから全て食べきった。その間も泰三との会話は絶えなかったが。
軽いインタビューを終えて会社に戻ろうとした時、泰三は紙袋を差し出した。
店を出た。夏の日差しは強く、目を痛めそうだったが何とか瞬きを繰り返して会社に戻った。よし、また頑張れる気がする。会社に向かって歩き始めた。
会社に帰ってきた時にざわめきを感じた。一体何があったのか、分からずにデスクに戻ると後輩が押し寄せてきた。
「友香さん!旦那さんニートなんですか?!」
「噂がめっちゃ流れてますよ」
旦那がニートだと話したのはゆりだけ。つまり犯人はゆり。でも信じ難い。
この事はできるだけ内緒にしてきたのに。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!