『ねぇ…あなた。』
突然、名前を呼ばれた。
私はゆっくりと振り返った。
「ん、どうしたの??」
そう言いながらも、先輩と話せた。という喜びに満ちた笑顔はまだ消えていなかった。気分も高まっていたからか、私はふわっと微笑みかける。
『…あの、さ。今言うことじゃないのかもしれないんだけどね、…。』
まふくんの声に元気はなかった。違和感を感じる笑顔はどこか寂しそう。
「うん…??」
にこっと笑顔を向け、顔を覗き込んだ。
『…っ、…あ、やっぱ、何でもない…!』
一瞬で桃色だった頬が赤く染まっていた。どこか寂しそうだった瞳は何か吹っ切れたかのようにスッキリとしていた。何でもない。その言葉を私は信じていいのだろうか。貴方の笑顔は本当なんだろうか。そんな疑問を抱きながらも…
「…そっか、…??」
結局、それしか言うことが出来なかった。
家に着いてからも私の心がすっきりと、今日の青空のように晴れることはなかった。
その夜、先輩から一通のメールが。
[今度、一緒に出掛けない??]
私の心に少し遅めの桜が咲いた。
[考えておきますね!]
すぐに[行きたいです!]そう言わなかったのは、どこか引っかかっていたからだと思う。
まふまふ_story
そらるさんに会ってからあの子の心を動かすことは難しかった。今までなら『あなた』そう呼ぶと、嬉しそうに話をしてくれた。でも今は違う。いつでもそらるさんのことを考えていたんだ。
僕が”君のことが好き”だとも知らずに。
「『ねぇ…あなた。』」
あのとき、本当は告白するつもりだった。少しくらい僕のことも見て欲しかったんだ。でも、無理だった。あの子は僕が思っている以上に先輩一筋だった。あんな喜びに満ちた笑顔を向けられても、僕は諦めるしかなかった。
僕の願いは昔からただ一つ。
あなたが幸せになれるならそれでいいんだ。
外はもうすっかり綺麗なオレンジ色に染まっていた。まるで、僕の心まで温めてくれるような温かい色をしていた。僕は夕焼けを眺めながら静かに涙を零した。ずっと心に秘めた想いを一人静かに一粒の雫として流していったんだ。
「…あなたっ…好きだよ……。」
誰もいない空間に声が谺響する。あなたが好き。
ずっと…
君に恋をしていた。
いや、今も恋をし続けている。
垢移行してから初めての投稿作品です。
いかがでしたでしょうか。
AtRとの恋愛事情というテーマは少し切ないイメージだったので、このようなお話にしました。次回は甘々なものを書いていこうと思います。よろしくお願いします。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!