そこにいたのは、紛れもなく佐藤 朝陽だった。
あまり名前を呼んだことがなく、なんて呼んだらいいか一瞬悩んだが、取り敢えず“佐藤くん”と呼んでおいた。
[あら?あなたとご主人様ってお友達?]
[話したことないの?]
そこまで言ったところで、目の前に佐藤 朝陽がいたことを思い出した。
勢い余って、わさびちゃんと会話していたが…周りから見たら、絶対おかしな人だと思われる…
やってしまった…
佐藤くんは、周りをキョロキョロと見回したが、誰もいるはずがない。
…わさびちゃんと会話していたのだから。
[何で黙ってるんだ?なんかあったのか?]
佐藤くんの心がそう言っているけど、答えられるわけない。
私が黙っていると、佐藤くんは真下に視線を下ろした。
その先にはわさびちゃんがいる。
…やばい。気づかれたかも…
その瞬間、佐藤くんはパッと目線を上げ、私の顔を見た。
気づかれた…
元々変な目で見られているから、この話が広がって、ますます周りから煙たがられる。…そうしたら、球技交流会の話、どうしたらいいんだよ…
と、私が悩んでいたその時。
予想外の反応に、私の方が驚いてしまった。
また気味悪がれるかと思ったのに…
私の言葉に、佐藤くんは首を傾げてキョトンとしている。
佐藤くんの心を読んでも、嘘をついているようにはまったく見えない。
この姿を見てまで気持ち悪いと思わないなんて…どうかしてる。
質問に質問を返された。
そんな質問をされても困るんだけど…
そう答えると、佐藤くんはますます目を輝かせて私を見てきた。
“尊敬する”とか言われたの初めてなんだけど…他人の心が読めるとか気味が悪いだけじゃん。
…やっぱり、馬鹿だから頭の中がどうかしてるのかな。
何回心を読んでも、正直な言葉しかぶつけてきていないし。
佐藤くんのアホらしすぎる考え方に驚いて、私はしばらく立ち尽くしてしまった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。