ポーン…
ビュッ!!
シュッ
と、言いながら、辻さんは前園さんにパスを送る。
私たちは三角形になって、お互いにパスを送っている。
…えーっと…それぞれの実力を正直に申し上げますと…
辻さんは、力が弱くて優しーいパスになっている。たまに相手に届かない時がある。逆に前園さんは、力が強くて勢いよくパスがとんでくる。
[む、難しいな…]
[わー、うまくとばない!]
2人はなかなか苦戦しているようだ。
そして、前園さんが私にパスを送った…その時。
前園さんが送ったパスは、私の頭上をはるかに通り過ぎ、私の真後ろにいた女子に向かって落ちていった…!
女子は反応するのが遅く、ぶつかると思ったのか、ギュッと目を瞑り、腕で頭をガードした。
────でもね。大丈夫ですよ。
私は落ちてくるボールに向かって思いっきり手を伸ばし、その女子の胸くらいの高さまで跳ぶと、ギリギリのところでボールをキャッチし、ダンッと音を立てて着地した。
[何があったの…?]
…うん、まあそりゃ驚くわな。
私が苦笑していると、前園さんが駆け寄ってきた。
私はそれだけ言うと、前園さんと一緒に辻さんの元へ戻った。
…昨日も佐藤くんに言われたけど。私ってそんなに尊敬されるべき人間なのかな…
頭を抱えて悩んでいた時。
ピ────!
…試合…か。
本当に久しぶりにやる…
ま、やるだけやってみっか。
私はひっそりと拳を握り、柴田先生の元へ向かったのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!