佐藤くんは、さっき決められたばっかりの関係を口に出し、私に問いかけてきた。
[教えてくれるまで、喋らないんだから]
という気持ちを読んでしまい、仕方なく話そうとしたその時。
ピリリリリ、ピリリリリ…
タイミングが良かったのか、悪かったのかの問題はさておき。山口さんの携帯が鳴ったのだ。
山口さんはポケットから携帯を取り出し、私たちに背を向け、携帯を耳に当てた。
どうやら、弟さんからの電話らしい。妹さんが熱を出してしまって、早く帰ってきてほしいとの催促か。
今、ほとんど一人っ子状態の私にとっては羨ましい限りだ。
だが、次の瞬間。その気持ちが一気に崩れ落ちることになる。
ピッといって電話を切った。
と言って、あっという間に公園から出ていってしまった。
まるで忍者のように、颯爽と駆け抜けていった山口さんを見て、佐藤くんがツッコミを入れた。
…っていうか、それよりも…
佐藤くんの口からは、他人の情報がペラペラと出てくる。
ただならぬ予感に、鳥肌がたった。
意外な関係でびっくりした。
私が惚けていると、佐藤くんはさっきの続きを話した。
佐藤くんは、まるで自分の家族を紹介するかのように、山口さんの兄弟を紹介した。
…紹介されたところで、会う機会がないだろうから、意味ないと思うけど…
…うん。やっぱりこいつアホだ。バカでアホでトンチンカンな、おたんこなす野郎だ。
自分から持ち出した話を忘れて、ケラケラ笑っている佐藤くんを見ながら、私は盛大にため息をついたのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!