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第7話

終 貴女を守るから
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2018/11/08 08:40
田村
あれ?確かあそこは内田真奈がいるはずなのに……
 田村も首を傾げる。下手側には菜美がいるが、上手には真奈の姿が見当たらない。
田村
あっ!まさか、逃げたんじゃ……!!
 田村が言い終わる前にも大輝は走り出していた。信じたくなかった。あの人は、きっと……。
 客席を出た大輝は、ホールから幕へと繋がるドアをこじ開ける。スタッフの静止も聞かず、ただひたすら廊下を疾走した。
 真奈は、廊下のベンチに座りこんでいた。耳を押さえ、荒い息を吐いている。
梶田 大輝
…………大丈夫ですか
    大輝は声をかけた。しかし返事はなく、顔をあげようともしない。仕方なく大輝は隣に座り、真奈の肩に手を置いた。
 ビクッと肩が動き、真奈は顔をあげる。口を開けたが、声は出てこなかった。代わりに目に溜まった涙が溢れる。
梶田 大輝
……大丈夫ですか
 大輝はもう一度、呼びかけた。真奈は必死に首を振り、口をぱくぱくさせる。
内田 真奈
か、かじ、梶田……さん……
    真奈はやっと、大輝の名字を呼んだ。
内田 真奈
あ、あたし、を……た、逮捕……して、くださ……い…………
 辿々しい口調で、泣きながら真奈は訴える。大輝は顔を曇らせた。
梶田 大輝
やはり、あなたがあの、20年前の赤ん坊だったんですね
 大輝は静かに尋ねる。耳が聞こえるようになったのか、真奈はコクリと頷いた。
 そして、そのまま大輝の胸に飛び込んでくる。大輝のスーツに顔を押し付け、声をあげて泣いた。
 そんな真奈の華奢な肩を、大輝はそっと抱きしめる。
──この人は……もしかして、ずっと俺のことを覚えていてくれたのだろうか……。幼い頃の、消したいはずの記憶から逃げずに……。

 大輝はいつまでも、真奈を抱きしめていた。





ライブが終わった後、真奈と菜美は田村に連れられていった。大輝は担当を降ろされ、別の班に引き継がれたが、田村は担当に残っている。後日、大輝は真奈と面会したが、真奈は何も語らなかった。調書を書いた田村の話では、事件の全貌はほぼ大輝が語ったものと同じだったらしい。ただ、菜美が真奈の家の合鍵を持っていたこと、エアコンなどの工作は菜美の完全な独断行為だったことなど、予測していなかった事実も存在した。
正当防衛は認められるだろうし、近いうちに2人とも出てくるだろう。そして一般市民として平和な暮らしを始めるのだ、と思う。




 ここに誓おう。俺は何があってもあなたの側にいると。たとえあなたの耳が聴こえなくなろうとも、俺はあなたに語りかけ続けることを。

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