大輝は静かに尋ねる。耳が聞こえるようになったのか、真奈はコクリと頷いた。
そして、そのまま大輝の胸に飛び込んでくる。大輝のスーツに顔を押し付け、声をあげて泣いた。
そんな真奈の華奢な肩を、大輝はそっと抱きしめる。
──この人は……もしかして、ずっと俺のことを覚えていてくれたのだろうか……。幼い頃の、消したいはずの記憶から逃げずに……。
大輝はいつまでも、真奈を抱きしめていた。
ライブが終わった後、真奈と菜美は田村に連れられていった。大輝は担当を降ろされ、別の班に引き継がれたが、田村は担当に残っている。後日、大輝は真奈と面会したが、真奈は何も語らなかった。調書を書いた田村の話では、事件の全貌はほぼ大輝が語ったものと同じだったらしい。ただ、菜美が真奈の家の合鍵を持っていたこと、エアコンなどの工作は菜美の完全な独断行為だったことなど、予測していなかった事実も存在した。
正当防衛は認められるだろうし、近いうちに2人とも出てくるだろう。そして一般市民として平和な暮らしを始めるのだ、と思う。
ここに誓おう。俺は何があってもあなたの側にいると。たとえあなたの耳が聴こえなくなろうとも、俺はあなたに語りかけ続けることを。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!