そこにあったのは、段ボール箱だった。中には3匹の子犬が固まっている。首輪もしていないところを見ると捨て犬だろう。
保健所に連れて行かれたその後を考えたのか、真奈の頬を涙が伝う。
涙が溢れ、足元に染みを作った。なにも言えない大輝は、ゆっくりと段ボール箱に近づく。毛布が敷かれ、小さな茶碗が3つ、並べてあった。真奈は3日間、ここに子犬の世話をしに来ていたのだ。その先のことはわかっていたはずなのに……。
♢ ♢ ♢
保健所に連絡して子犬の死体を引き取ってもらったあと、2人は真奈の家に戻ってきた。玄関のところで田村と菜美に会う。
大輝は気になっていた疑問をぶつけた。
菜美は当然とばかりに答える。
大輝は申し訳なさそうに聞く。菜美は眉を顰めた。
真奈は驚いたように尋ねる。
田村も同意するように首を縦に振った。
菜美は少し躊躇ったが、諦めたように言う。すみません、と大輝は頭を下げた。
♢ ♢ ♢
その夜、大輝は交通課の友人から借りた過去の事故データを、片っ端から流し読みしていた。20年近く前のデータで、ふと手を止める。
しばらく熟読していたが、やがて脳が回転しだした。
廊下の窓……残ったままの凶器……起動していないエアコン……
そして、やがてその脳が1つの解答を導き出す。
…………そうか、だからおかしかったんだ……あの時の態度も、あの時も……。
大輝は頭を抱えた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。