*
次の日、いつものように話しかけてくる川原を見てほんとに昨日の告白は無かったのではないかと思えた。
まあそこにはやっぱり壁は存在していたのだが。
でも、今思えばわかる、私は川原のことが好きだったのだ。
恋愛として。
つまりは簡単。
当時の私は恋愛というものが全くと言っていいほど分かっていなかった。
好きだった男子を自分が恋愛を知らなかったから振ったなんて誰が思い出したいと思うだろう。
タクシーの中で今日何度目かのため息をついた。
心配そうな表情で私の顔を覗き込む。
瞼の上に丁寧に塗られたアイシャドウがキラキラと輝いている。
ちなみにというと今から黒歴史を掘り起こしに行く。
同窓会に行くのだ。
中学時代の同級生と、川原に逢いに行くために。
ほんとに?と不安そうに聞く美緒に私をここに連れてきたことについて多少の罪悪感はあるのだろうと思った。
別に決断したのは自分だし、私が絶対行かないと言えば無理に誘わないのが彼女だ。
変な気持ちを持たれてもなあ、でもそんなこと言ったらもっと罪悪感感じるよなあと背もたれに体重を預けるとタクシーが止まった。
ついにか。
タクシー代を払って外に出る。
昼間は暑いのに夜は寒い面倒くさい季節だ。
風が冷たいのでそそくさとホテルに入った。
そこからは受付を済ませて会場へ向かった。
どくどくなる胸に大丈夫だと言い聞かせて。
そして入口近くに立って5秒ぐらいの大きな深呼吸。
大袈裟ではあるが、それぐらいの緊張を私はしているのだ。
私たちの通っていた中学の名前に同窓会会場の文字。
あの甘酸っぱい思い出とかつての級友、そして彼の顔が頭にぼんやりと浮かんだ。
どくんと1回1回大きく高鳴る胸に眉を潜めて会場へと足を踏み入れると
早速友人が見つけてくれた。
パタパタと小走りで近づいてくる2人は見た目は大人っぽくなったとはいえ、中身はあまり変わっていないようだった。
今のように元気〜!!とピースを作る彼女達を見て感傷的になってしまう。
美緒が私といるときとは打って変わって、恥ずかしそうな態度でつっかえながら言葉を発した。
とはいえ私以外の前でこう話すのはほとんどないので、やはりすごく楽しいのだろう。
ため息が重なった。
あの頃はすっぴんとか身だしなみとななんにも気にしなくて良かったよね〜と歳を感じながらも、逆に大人になったからこそできる会話だねと笑い合う。
そこから、美緒と他の子にも会いに行こうと会場内を歩いていると
そんな声が聞こえてきた。
*
川原蓮という人間は大人になった今の私から見れば、スクールカーストの上位に位置する人物であった。
顔は整っているし運動神経も抜群、確かにテストではいつも平均点当たりをとっていたものの、それを笑い飛ばし何かしでかしてもしょうがないなと許される、そんな人種。
そんな彼と比較的クラスの端っこにいた私が仲良くなったのは奇跡に等しい。
あの時私が川原に黒板消しを投げつけなければきっと仲良くなっていなかったと思う。
何故そんなことをしたのかはあまり長くは説明しないが、あいつは優しすぎるのだ。
それが裏目に出てしまい、日直の仕事をサボりにサボりまくらついに放課後友達に遊びに誘われ断れなかった川原に私が憤慨し黒板消しを顔面にそのまま投げつけた、いや押し付けたのだ。
そして昔の友人とのお喋りに夢中になっていて気づかなかったが確かに今彼はここに来ていなかった。
もしかして欠席なのかと少し寂しいような安心したようなよく分からない気持ちになりながらも小さくガッツポーズをとった。
美緒に変な目で見られたけれど。
なんだ。
何も心配することはないじゃないか。
なんて思いながら安堵のため息をついているとわっと声があがった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。